――市役所のエレベーターで職員に会うと積極的に声をかけると聞きました。

「IDカードを見て『どちらの方?こども青少年局?今、すごく忙しいでしょう。いつもありがとうございます』って。これをやるのは特に若い職員と接する機会が全くないからなんですよ。企業の社長だった時は全従業員を集めて事業計画を発表し、その後にパーティーを開いて若い人たちと『頑張ろう!』と励まし合う場を作れたんですが、行政はそんなことはしちゃいけない。私自身を知ってもらうチャンスが極めて少ないんですよね」

つらかったことも含めて人間性を見せる

――市役所が変わったと実感するまでにどのくらいの期間がかかりましたか。

「常に人間性を見せることが大事」と話す林文子氏

「5年過ぎた頃からだんだん変わってきましたが、本当に変わったのは7年過ぎてくらい。今では職員の方からあいさつしてくれます。市民の方、経済界の方にも『変わりましたね』と言われます」

「市では毎年、区役所に来庁された方に窓口サービスの満足度を尋ねる調査をしていますが、17年度は全体的な印象について『満足』と答えた人が83.9%に達しました。『やや満足』と合計すると97.2%で過去最高を維持しています。私が就任した翌年の10年度は『満足』との回答が68.2%でした。職員には『一生懸命さが伝われば満足してもらえる』といつも言っています」

――様々な組織でリーダーを経験していますが、大事にしていることはどんなことですか。

「リーダーにとって一番の素質は包容力です。決断力は持っていて当然です。『俺について来い』なんて言葉は自己肯定感満々の方が言うセリフ。リーダーシップって周りが評価することです。だから相手の立場に立つ、相手の話をよく聞くということが、リーダーの条件だと思います」

「それから常に人間性を見せていくこと。自分の経験や、つらかったことを伝えてあげるといいと思います。『林さんもそんな経験をしているんだ。自分も大丈夫だ』と思ってもらえるチャンスになるのかなと。あとは忍耐ですね」

――包容力や人間性を見せることが大事だと思うようになったきっかけは何だったのでしょう。

「女性リーダーのロールモデルがほとんどいない中、無手勝流でやってきたことでしょうか。私が自動車業界で営業課長や部長、支店長をやってくださいと言われた1980~90年代は女性が中間管理職になるなんて思えない時代でした。私も男性の役割だと思っていました。当時、私は管理職になるための教育はされませんでした。ただ、今でも思い出すのは自分が支店長になった時のこと。自分が部下だった時代にやってほしくなかったことはやらないと決意しました」

――それはどんなことですか。

「私は自動車販売会社で売り上げトップの期間が長かったのですが、トップは最も孤独なんです。いつも人の上に立っていて、アスリートのように絶対に負けたくないという気持ちが染み付いている。来月は売れないかもというプレッシャーを常に感じていました。ところが多くの上司は『トップだから何もしなくて大丈夫』と声もかけてくれないのです。売れなくてうろうろしている社員に一生懸命になってしまう。すごく寂しかった。あの時褒めてくれたら、もっと『ありがとう』と言ってくれていたら、どんなにうれしかっただろうと思ったんです。だから私は部下を褒めることや感謝の気持ちを伝えることを大切にしています」