ピアニスト藤田真央 10代最後のショパン

ショパンは藤田さんにとって新たな挑戦だ。「モーツァルトは楽しい。彼の音楽はオペラみたいにすぐにいろんな場面に転換するから。でもショパンは非常に難しい作曲家だ。もともとのベースがある形で、テンポやいろんなメロディーラインを考えて動かさなければいけない」。やや理解しにくい説明だが、曲の土台や原型がしっかりある中で、曲の速度やリズムを自由に動かして感情表現をしなければならないということのようだ。テンポルバート(曲の速度の自由な加減)という奏法を指しているのだろう。

ショパンへの挑戦から始まる20代の音楽活動

マズルカやワルツのようなポーランドの民族舞曲がショパン作品の背景にあることも、演奏が難しい点として挙げる。「踊りのリズムを知らなければならない。ポーランドのダンスを踊った経験もない日本人がショパンのマズルカやワルツを弾くのは一苦労だ。その上であの哀愁深いメロディーの味わいを出すのはさらに難しい」。それは感情面での難しさともいえる。通じる部分もあるとはいえ、やはりモーツァルトとは対照的な要素も詰まっている音楽といえそうだ。

ショパン「ピアノソナタ第3番」を弾く藤田真央さん(5月23日、東京都中央区のヤマハ銀座ビル別館)

しかし、あえて対照的なショパンに挑むことが20代のキャリアを開くカギを握る。「モーツァルト弾き」に安住することなく、「今後もずっとショパンを弾き続ける」と語る。藤田さんの弾くショパンの「ソナタ第3番」はモーツァルトと同様に音がくっきりと浮かび上がり明快だ。緩やかな第3楽章では特に、音色が軽やかなため、一音一音を克明に弾いていても、自由に揺らぎを生じさせて感情の起伏を表現しているように聞こえる。そこが彼の若さにもかかわらず、大人のロマンチシズムを感じさせるショパンに仕上がっている理由かもしれない。

「ショパンの魅力は旋律の美しさ。右手で旋律、左手で伴奏の古典派とは異なり、曲のどの部分でも美しい旋律を歌えるように弾く必要がある」。もちろんショパンについてはまだ進化の途上であろう。だが、モーツァルトをはじめ古典派に精通したピアノ奏法の中から、彼独自の新しいショパンの演奏芸術が生まれてくるかもしれない。

2016年に亡くなったピアニスト中村紘子さんから高い評価を受けてきた。16年には中村さんが音楽監督の「第20回浜松国際ピアノアカデミー」を受講し、同コンクールで第1位を受賞した。1965年の第7回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に入賞した中村さん。その時の優勝者はマルタ・アルゲリッチさんだった。最晩年の中村さんから薫陶を受けた藤田さんは果敢にショパンにも挑み続ける。これからようやく20代が始まる。20代初めはショパンが故国ポーランドを去ってウィーンへ、そして永住の地フランスへと向かった年ごろだ。モーツァルトの先にショパンがあり、新たな活躍の舞台が広がっていきそうだ。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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