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庭崎紀代子・セイコーウオッチ取締役常務執行役員

庭崎紀代子・セイコーウオッチ取締役常務執行役員

管理職として活躍する女性が仕事やプライベート、働き方への思いを自らつづるコラム「女性管理職が語る」。女性管理職が交代で執筆します。今回は、セイコーウオッチ取締役常務執行役員の庭崎紀代子氏。4回目の登場です。

◇  ◇  ◇

長く仕事を続けていれば、一度も病院の世話にならないでいることは難しいのではないでしょうか。私も40代最後の日に予期しないアクシデントで、入院と車椅子生活を強いられました。運動不足解消のため通っていたスポーツジムでトレーニング中に転倒し、足首を骨折したのです。時計業界では次年度の新作を発表する国内外の展示会や見本市を控えた1月下旬のことでした。

倒れた時に足が思わぬ角度に曲がっている感じがあり、救急車で病院に運ばれると足首を複数カ所、骨折していました。足首はすさまじく腫れ、手術をするにも腫れがひくまで待つほどです。

結果として入院期間は1カ月以上に及びました。広告表現やプレゼンの内容確認など、判断しなければならないことが山積みの時期です。足以外は不自由なところはないことから、パソコンと携帯を病室に持ち込み、遠隔で連絡を取り合って繁忙期を乗り切ることになりました。

こんなことを言うと、わざわざ病室に出向いてくれた人たちに申し訳ありませんが、入院中からリハビリ期間を含めた数カ月間の経験が、自分と仕事、そして周囲の人々の捉え方の違いなど様々なことに気づくきっかけとなりました。

まず、自分が不在でも物事は回っていくということです。もちろん、周囲の配慮には大変助けられました。しかし、「いつも自分がいなければ」というのは思い込みなのではないかと考え、権限を託すことの大切さを実感しました。

退院後はバリアフリーについての考えを新たにしました。会社に復帰してからも当初は車椅子生活。さらに2カ月間は松葉づえの世話にもなりました。そこで感じたのが会議や報告など社内でも意外にフロア間の移動が多いことです。

ある時、化粧室の隅や会議室に小さな丸椅子が置いてありました。聞いてみると、総務部が用意してくれたものでした。移動中にほんの少し腰掛けるだけで、不自由な足でも格段に楽に過ごすことができます。バリアフリーは設備だけでなく、ちょっとした工夫が大きな助けにつながることに気づきました。

事故から2カ月後、時計業界で最大級の国際見本市であるスイスのバーゼルワールドの時期が近づきました。この時はまだ松葉づえでやっと歩ける状態でしたが、周囲のサポートで会社生活はこなせるようになっていました。楽観的な性格もあり、「これは、行けるかも」「バーゼルでの成果を見たい」と思い始めました。

興味深かったのはこの時の周囲の反応です。「え、まさか、その状態で海外出張しませんよね」と心配そうな男性社員。一方、女性社員はほぼ全員が平然と「当然バーゼル行かれますよね」と口をそろえました。たまたまなのか、女性の方が楽観的で強いのか、専門家に分析をお願いしたいぐらいです。

この時のバーゼル出張は、日系エアラインの細やかな配慮や欧州のバリアフリーの充実、そして同行した社員や現地スタッフの気配りに助けられ、無事帰国することができました。今でも忘れられない記憶に残る海外出張の一つです。

にわさき・きよこ
 日本女子大文卒、服部セイコー(現セイコーホールディングス)入社。ライセンスジュエリーを担当。2001年にセイコーウオッチへ。18年取締役常務執行役員。

[日経産業新聞2018年6月28日付]

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