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シンプルで機能的 北欧モダン受け継ぐ美しい椅子たち いつかは欲しい! 「名作椅子」の知っておくべき物語(1)

2018/7/12

 動画配信サービス「Paravi(パラビ)」は2018年7月1日から、名作と呼ばれる椅子を高画質の映像で紹介するオリジナル番組『世界の美しい椅子』を始めた。そこで、本編に入りきらなかった知られざるエピソードを4回にわたって解説する。初回はシンプルで機能的という北欧モダンデザインの流れをくむ「Yチェア」と「パントンチェア」だ。

■デンマークデザインの巨匠A・ヤコブセン

 戦後に訪れたデンマークデザインの黄金期、その中心に君臨したのがアルネ・ヤコブセン(1902-71)。建築から家具、照明器具、テキスタイル、テーブルウェア、時計などまでデザインしたスーパースターである。あなたもどこかでひとつは見たことがあるに違いない。まさに、「北欧モダンデザインの祖」といってもいいヤコブセンは、作品はもちろんのこと、人となりについてもしばしば話題に上る。職業的にスマートな印象を持つかもしれないが、ヤコブセンに限ってはかなり人間臭い人物だったようだ。

 10年ほど前だっただろうか。とある雑誌に、ヤコブセンの人物像についてだいたい次のように書かれていた。「偉大な建築家、デザイナーであるのは間違いないのだが、わがままで人使いが荒く、倹約家というよりケチだった」。さんざんな言われようだが、彼の名誉のために付け加えると、これは若かりし頃の話らしい。ヤコブセンの晩期にあたる60年代にヤコブセンの事務所に勤務していたデザイナーのナッド・ホルシャーを取材したことがあるのだが、ヤコブセンはスタッフとのコミュニケーションを大切にしていたそうだ。多くの人がそうであるように、ヤコブセンも歳を重ねるにつれて、丸くなったのだろう。

「Yチェア」ハンス・J・ウェグナー 1950年発表

 初期にあたる41年から2年間、ちょうどヤコブセンが傲慢であったと思われる時期にスタッフとして働いていたのが、「Yチェア」で有名なハンス・J・ウェグナーだ。在職中はおもに「オーフス市庁舎」の椅子のデザインを担当した。この仕事を通じてウェグナーは、生涯にわたって付き合うことになる家具のマイスターたちと出会い、彼らについて語ったエピソードを残しているのだが、不思議とヤコブセンについてはほとんど聞かれない。ヤコブセンが自身のデザインを実現するために職人たちとのケンカもいとわなかったのに対し、自身もマイスターの資格を持つウェグナーは職人たちとの対話を重視したという。ある部分では、ヤコブセンを反面教師にしていたのかもしれない。

■V・パントン「ヤコブセンから学んだ」

 一方、「他の誰よりもヤコブセンから多くのことを学んだ」と公言しているのが、ヴァーナー・パントンだ。50年から52年までヤコブセンの下で働いたパントンは、「アリンコチェア」(52年)に携わっている。成形合板を材料に、世界初の背と座が一体となったシェル型の椅子の開発の経験が、脚までを含めて一体化した自身の代表作「パントンチェア」(67年)に結実したのはいうまでもない。ヤコブセンの北欧モダニズムのイズムをもっとも受け継いでいるのが、パントンなのではないだろうか。

右手前の椅子が「アリンコチェア」アルネ・ヤコブセン 1952年発表

 ヤコブセンの影響力は過去のものではない。アリンコチェアをはじめとする、ヤコブセンの家具を製造するフリッツ・ハンセン社で活躍する現役のデザイナー、キャスパー・サルトの次の言葉にも示されている。

 「ヤコブセンの存在は、ときにはプレッシャーになることもあるけど、彼がデンマークデザインの評価を高めてくれたおかげで、自分たちが世界に出やすかった部分もあると思う」

 デンマークデザインを語る際、メインキャストとして外せない存在感を放つアルネ・ヤコブセン。その直弟子にあたる2人がデザインした「Yチェア」と「パントンチェア」のこと、もっと知りたくありませんか?

萩原健太郎
 デザインジャーナリスト。日本文芸家協会会員。1972年生まれ。デザイン、インテリア、北欧などのジャンルの執筆および講演などを中心に活動中。著書に「ストーリーのある50の名作椅子案内」(スペースシャワーネットワーク)、「北欧とコーヒー」(青幻舎)などがある。

[PlusParavi(プラスパラビ) 2018年7月1日付記事を再構成]

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