週末レシピ ラタトゥイユはごった煮じゃなくお煮しめ
フランス人に「お袋の味は」と尋ねると、かなりの確率で野菜料理の「ラタトゥイユ」(Ratatouille)と返答がくる。家庭料理の定番でもあり、フランスのスーパーではチルド品も冷凍食品も種類が豊富だし、量り売りの総菜店などでも売られている。ビストロのようなカジュアルな店から、ドレスコードがあるような店まで、飲食店でも多く登場する料理だ。
夏野菜をたっぷりと使ったラタトゥイユ。作り置きができ常備菜にもなるので、この夏、チャレンジしてみよう。
ラタトゥイユとは、南フランスの郷土料理で夏野菜の煮込みである。タマネギ、ナス、ピーマンやパプリカ、ズッキーニなどをニンニクとオリーブ油でいため、トマトを加えて煮て作る。ローリエ、オレガノ、バジル、タイムなどのハーブ類を使うものもある。
注意してほしいのは、いためた野菜をトマトの水分で煮た料理ではあるが、「野菜とトマトのごった煮」ではないこと。野菜を順番に炒めてから、トマトを加えてサッと蒸し煮にする料理だ。
和食でいうところの、「お煮しめ」。これも本来は「ごった煮」にするのではなく、食材一つひとつの煮方に気をつかって火を通し、合せて煮染める料理だ。
<材料:(メインにするなら3~4人前)>
トマト2~3個 / タマネギ1~2個 / ナス 3~4本 / ズッキーニ 1~2本 / パプリカ(赤・黄) 各1個 / ピーマン 2~3個 / ニンニク 1~2片 / トウガラシ(タカの爪) 適宜 / トマトソース(今回はバジル、パセリ、オレガノ入り)1~2カップ / 塩・コショウ 各適量 / オリーブ油 適量
材料はこの時期に普通のスーパーで手に入るものばかり。しかし、ハーブ類をそろえるのは面倒な方もいるだろう。ハーブを入れなくてもラタトゥイユと呼ぶことはできる。ただ、入れた方がより南仏らしさが出てくる。フレッシュでなくとも、ドライハーブを使えばよい。ハーブ類を買いそろえずに、それらやワインが入って既に調味されたトマトソースに助けてもらう手もある。今回はトマトソースを使う作り方だ。
トマトソースといっても特別なものではなく、パスタソースでも、ピザソースでもかまわない。スーパーで市販されているトマトソースは種類が多いので、材料表記にハーブが含まれているものを選べばよい。チーズなどが入っているものは避けよう。トマトソースを使わずに作りたい方は、フレッシュトマトの量を多めにし、最後にハーブ類を加えよう。トマトを加える段で、白ワインを少量プラスしてもよい。
調理工程は驚くほど簡単。
・切る
・いためる
・煮る
たったこれだけで、あっと言う間に本格的なフランス料理ができあがるので、気軽に作ってほしい。
<作り方>
(1)野菜をそれぞれ乱切りにする
レストランなどでは、パプリカの皮をむいたり、トマトの皮もむいたり、それだけでなく種も丁寧に取り除いたりもする。まあ、家庭料理であればそこまでの必要はないだろう。ただし、トマトを皮ごと煮込むと食べた時に口当たりが悪いので、せめてトマトの皮だけはむいておこう。
トマトの皮むきには、湯むき、直火むきなどがあり、どの方法でもよい。どちらも面倒であれば、湯も直火も使わずそのままダイレクトにむいてもよい。多少、皮に実が残ってしまうがさほどの問題ではない。
(2)フライパンに多めオリーブ油、つぶしたニンニクとトウガラシを入れ、弱火にかける。ニンニクの香りがしてきたら、タマネギを軽くいため別鍋に移し、少量の塩を加え蓋をして火にかけておく
フライパンの油はそのままに、野菜だけを鍋に移そう。
(3)(2)の手順通り、ズッキーニ、パプリカ、ピーマン、ナスをその都度、多めの油を足しながらフライパンでそれぞれいためてから鍋に移す
野菜によって火通りに違いがあるため、一度にまとめていためるのではなく、1種類ずついためて鍋に移す作業がポイントになる。いためる順番は、最初はタマネギ、最後はナス。これだけ守れば、途中は気にしなくてよい。
ナスを最後にする理由は、フライパンに残っている、ほかの野菜から出たうま味がにじんだ油をナスが吸収してくれるからである。
(4)鍋にトマトとさらに少量の塩を加え、蓋をして蒸し煮にする
水分を加えずとも塩を加えて弱火にかけておくと、野菜から水分が出てくる。これが夏野菜の味を濃く感じてもらうコツだ。
(5)野菜がしんなりとしてきたらトマトソースを加え、全体をさっと混ぜてから、再び蓋をして10分ほど火を通す。仕上げに塩、コショウで味を調え、蓋を外し軽く煮詰めてできあがり
野菜の水分量によって汁気に多少の差がある。いずれにしても、最後は煮汁が少なくなるまで火にかける。汁気をある程度飛ばすことによって、より凝縮されたうま味が味わいになる。
材料欄に「メインにするなら3~4人前」と書いた通り、これをガッツリとメイン料理として食べてもよし、あるいは肉や魚の付け合わせとして添えるもよし。また具だくさんなソースにして、パスタなどと合わせもよい。ご飯の上にドバっとのせ、卵を落としてラタトゥイユ丼なんていうのもありだし、サンドイッチの具としても合う。
ところで、今回はフランスのラタトゥイユを取り上げているが、イタリアにはとっても良く似た、「カポナータ」(Capunata)という料理がある。カポナータの説明を求められれば、イタリア版ラタトゥイユと答え、逆にラタトゥイユとはと聞かれれば、フランス版カポナータと言ったりもする。
ではこの2つ料理の違いは何だろうか。
夏野菜を使った煮込み料理という点は両者とも同じ。ただ、カポナータは、ナスを一度オリーブ油で揚げ、いためたタマネギ、セロリ、トマト、そしてオリーブ、ケッパーと合わせて白ワインビネガー、塩、砂糖で軽く煮込んでからバジルをちらす。
大きな違いは、ナスを揚げることと、酢と砂糖を加える点だ。これにより、ラタトゥイユが野菜そのものの味がベースなのに比べ、カポナータは甘酸っぱい味に仕上がる。ともあれ、どちらも元々は地中海地方でよく食べられていた郷土料理が、今やフランス全土、イタリア全土で好まれる家庭の味となったのだ。
最初に、フランスの「お袋の味」と記したが、「家庭の味」としておいた方がよいかもしれない。
以前、パリのアパートに引っ越した際、大家さんのお宅に招待していただいた。ご主人はフランス人、奥さんはオランダ人だったので、オランダ料理ってどんなのかなあ、と思いをはせつつ出向いたところ、料理をしてくれたのはご主人で、その間、奥さんは食前酒のスパークリングワイン飲み、ピクルスやサラミなどつまみながら私の話し相手になってくれていた。
何もこの家庭に限ったことではなく、共働き率の高いフランスでは男性が家事全般、炊事や育児をすることも稀ではない。なので「お袋の味」と言ってしまうと、「いやいやウチではお袋ではなく、親父の味だ」っとなりかねない。
ちなみにその日に出されたメイン料理は、レモン風味に蒸した白身魚に、付け合わせとしてラタトゥイユが添えられていた。ここでは大きめに野菜をざく切りした、まさに家庭のラタトゥイユだった。
フランスの総菜店やビストロではこのざく切りスタイルが主流。ちょっと高級なレストランでは、もう少し上品さを出している。以前、私が働いていたフランスの店では、野菜をさいの目くらいの小さな角切りサイズに切りそろえ、型取りしたものが、肉や魚料理に添え提供されていた。
密閉容器に入れ冷蔵庫で保存すれば数日は日持ちがするし、主菜にも副菜にもなるのでお役立ちメニューだ。また冷やしたままの状態で小皿に盛ってクラッカーなどを添えれば、つまみとしてもおいしい。
私の持論だが、冷たいラタトゥイユには、キリッと冷えたビールや白のスパークリング、温かいラタトゥイユには、軽めの赤ワインが合う。そして両方に合うのはロゼワインだ。この夏の晩酌には、ワインが増えるかな。
(世界料理探究家 T.O.ジャスミン)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。