原点はカープ愛・鶏丸焼き…ユニーク家電の開発秘話
これまでにない斬新な製品は、ベンチャー企業が開発して世に問うイメージがあるが、最近は老舗企業が手がけたユニーク製品も目立つ。国内の人口が減少するなか、既存製品の改良や他社の後追いだけでは収益を確保できないからだ。とはいえ、斬新なアイデアが大手メーカーでは採用されないこともままある。最近発売された大手のユニーク製品は、それらの課題をどうクリアしてきたのだろうか。
シャープの腕時計型応援グッズ「funband(ファンバンド)」は、地方事業所ならではの着眼点や販路を生かした好事例だ。同社のIoT事業本部は広島県東広島市にあり、社員の半数以上が広島県出身。15年に「離れた人たちが何かを伝え合うIoT機器」というテーマでアイデアを出し合ったときに、地元の広島東洋カープ応援グッズの案が挙がったのは必然だった。
開発担当の廣澤慶二氏らが試作機をカープ球団に持ち込んで許可を取り付けた後は、「カープ女子会」などファンコミュニティーの意見を取り入れて機能を追加していった。広島県民の大半が販売ターゲットなのでマーケティング活動もスムーズ。広島電鉄での広告や、県内のショッピングセンターでの限定販売で浸透を図った。販売は順調で、現在は10球団に広がっている。
ダイキン工業の「アシストサーキュレータ」は、社内公募という正攻法からスピード開発された。応募数は何と6000件。同社の営業、開発部門の社員は4000人なので、全員1つ以上のアイデアを出した計算になる。「香り付きエアコン」や「見守り機能」などの多彩なアイデアのなかから、自社の強みが生かせて他社が未発売という観点から、室内の空気を循環させ、エアコンの死角ゾーンにも気流を届ける、アシストサーキュレータが選ばれた。
送風機能自体は既存のエアコンのファンを流用できたので、3カ月で完成した。通常、エアコンは数十万台を販売する前提で開発するが、新製品は特別に1万台以下の小規模生産を許可。量販店などとの商談を1カ月前に済ませ、何とか夏の前に発売にこぎ着けた。
パナソニックの「ロティサリーグリル&スモーク」は、奇抜なアイデアを、売れる製品にまで磨き上げた例。他社の高級トースターなどが話題になったころから、同社には「独自の調理家電を出したいという思いがあった」(パナソニックの石毛伸吾氏)。
そこへある担当者が、「回しながら鶏を丸焼き」にできる試作機を持ち込んだ。肉がおいしく焼けてエンタメ要素もあると、すぐに商品化を検討。だが、そこからが長かった。
大型調理器は、月に1回しか使わないようでは売れない。独自調査の結果、「5万円以下で、トースターなど複数の機能があれば売れる」という結論が出た。しかし、グリルとトースターではヒーターの配置がまるで違う。「牛2頭分の肉を焼いた」(同社の平田由美子氏)というほどのテストを重ねて、グリルに薫製、オーブン、トースターの機能を付けた1台4役の商品が完成。料理好きの男性も注目する製品になった。
[日経トレンディ2018年8月号の記事を再構成]
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