究極の行きづらさ…小笠原諸島
11年に世界遺産に登録された小笠原諸島の魅力は「本当にリモート(遠隔地)であること」(シャウエッカー)。父島への交通手段は、ほぼ週1便(季節により変更)の船のみで、東京港から実に24時間かかります。それでも16年7月就航の「3代目おがさわら丸」によって1時間30分も短縮されました。ジャパンガイドが取材に行ったときは、約25時間30分の船旅。しかも台風直後だったため出航は1日遅れるし、東京湾を出たら太平洋はまだ荒れていて、本当に大変でした。

その行きづらさによって、すばらしい生態系は守られてきました。大陸と一度も陸続きになったことがなく、海流や鳥などによって運ばれた動植物が独自の進化を遂げた、まさに島ならではの特徴を強く有している場所なのです。
「世界遺産になった理由は、固有の生物のことが挙げられていますので、それは大事にしないと……。今も必死に守っている地元の人々や関係者の方たちがいますが、世界遺産になって観光客が増えてから既に問題が起こっているので、とても心配です」(シャウエッカー)
観光は小笠原にとって一つの重要な産業ですが、それでも間口を広げず、船で24時間かけて行くしか手段がないという島は、本当に貴重だと思います。だからこそ守られてきた自然、動植物、食べ物。海ではイルカやクジラも見られますし、山も海も景色がすばらしいです。

島民の方の利便性や緊急時のことを考えると航空便の必要性も感じますが、観光客はその行きづらさも楽しむくらいの心の余裕を持って、この世界遺産の島を訪れてほしいと思います。
シャウエッカー光代
ジャパンガイド取締役。群馬県生まれ。海外旅行情報誌の編集者を経て、フリーの旅行ライターとなり、取材などで訪れた国は約30カ国。1994年バンクーバーに留学。クラスメートとしてスイス人のステファン・シャウエッカーと出会い、98年に結婚。2003年、二人で日本に移住。夫の個人事業だった、日本を紹介する英語のウェブサイト「japan-guide.com」を07年にジャパンガイド株式会社として法人化。All About国際結婚ガイド、夫の著書「外国人が選んだ日本百景」(講談社+α新書)「外国人だけが知っている美しい日本」(大和書房)などの編集にも協力。
