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増え続ける子育て社員 管理職の思考停止は禁物 出口治明(ダイバーシティ進化論)

2018/7/7 日本経済新聞 朝刊

写真はイメージ画像=PIXTA

 政府が成長戦略に女性活躍を掲げて5年。女性が出産や育児によって離職することで、30代を中心に働く人が減る様子を指す「M字カーブ現象」が解消しつつある。働く意欲を持つ女性が増えたうえ、育児休業や短時間勤務など企業の子育て支援策も充実。女性たちにとって妊娠・出産後も働き続けるライフスタイルは珍しくなくなった。

 生き方の選択肢が広がったのは、社会の豊かさを映すことであり喜ばしいことだ。だが、管理職のなかには、時代にキャッチアップしてスマートフォンを使いこなすことなら即応しても、育児をしながらキャリアを積む女性がチームに加わるといった時代の変化への対応となると、キャッチアップを放棄し「労務管理が面倒臭い」と思考停止する人も見受けられる。「ダイバーシティ(人材の多様性)疲れ」といった言葉が聞こえるのも、そんな偏った時代対応のせいだろう。

 これは実にもったいない。「ダイバーシティ」といわれて腹落ちしないなら「顔ぶれが多彩になった」と思えばいい。チームから引き出せる知恵や成果を従来以上に広げられるのだ。育休などで生じる欠員についてもそうだ。「10人の仕事を9人でどう回すのか」と「10―1=9」の算数症候群に陥ってはいけない。その発想は基本的に間違いだ。そうではなく「チャンス到来」と全体の仕事を棚卸しし、不要な職務を削減すればいい。管理職がムダを圧縮してくれるなら、残ったメンバーも欠員となる人を快く送り出せよう。

 全体を見る。これはマネジメントに欠かせない用件のひとつだ。それなのに、なぜ、算数症候群に陥って思考停止をしがちかというと、日本の管理職が勉強していないからだ。大学進学率は経済協力開発機構(OECD)の平均より低く、長時間労働で勉強する時間もない。高度成長期は製造業の工場モデルが引っ張っていたので機械は止めたら損と人間も含め稼働時間の長さが求められた。だが産業構造は変わり、新しい発想が必要な時代となった。長時間の稼働や労働は生産性を低下させるだけだ。

 人生100年時代を迎え、学び直しが説かれている。グローバルな視点でみればミドル層の学び直しは当たり前のこと。ようやく普通の状況になったわけだ。いまこそ学びの力で根拠なき精神論から脱し、科学的合理的にダイバーシティがもたらす利点に目を向けたい。

出口治明
 
立命館アジア太平洋大学学長。1948年生まれ。72年日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを務める。退社後、2008年にライフネット生命を創業し社長に就任。13年から会長。17年6月に退任し、18年1月から現職。『「働き方」の教科書』、『生命保険入門 新版』など著書多数。

[日本経済新聞朝刊2018年7月2日付]

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