20代女子が未来年表 マネープランで高まる昇進意欲
女性が仕事で長く活躍するために必要なことは? 20代のうちに、今後数十年間の自分の未来年表を作り、自身のキャリアを考える取り組みが企業で広がっている。「子育てにはお金が必要」「昇級した方が生活を充実させられる」など、望ましい人生のための資金計画作りが、キャリアアップを考えるきっかけになっている。
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「生きていくにはお金が必要。やっぱり早く昇級するのが得かも」「子育てで時短勤務になると収入が減るから、時間に余裕のある出産前にキャリアを積んでおきたい」。損害保険ジャパン日本興亜の本社会議室では、約110人の女性社員らがお互いの未来について話し合っていた。
マネープラン通じ見えた未来 損害保険ジャパン日本興亜の薄田麻也子さん
損保ジャパンは昨年10月から、女性社員向けの研修「みらい塾28」を始めた。28歳の全女性社員が対象。先輩の話を聞きながら、1日かけて自分の70歳ごろまでのキャリアとライフプランを書き出す。
作業では「30歳で出産して育児休業を取得。31歳で復帰して5年間は時短勤務」など、なるべく具体的に年表を作る。同時に昇級で給与がどう変わるかの資料を会社が提示。研修も半ばを過ぎると「2人目もすぐに出産すると30代はほとんどフルタイムで働けない」「時短で長く働くと子供が小学生になった時に資金的な余裕がないのでは」といった気づきの声が上がった。
リテール営業推進室で保険代理店の支援などを手がける薄田麻也子さん(29)は研修で「自分と将来出産した子供の年齢を書き出して、改めてお金がかかると気付いた」と話す。出産したら当面は時短勤務で働こうと考えていたが、「フルタイムと時短では収入にこんなに差が付くとは思わなかった」。
現在の肩書は主任だが、主任の1つ上の副長に昇級すると収入も増える。研修を受ける前までは「何となく40歳ごろに昇級できればいいかと思っていたが、時間に余裕のある今のうちに挑戦したい」と考えが変わった。5月末に上司と面談し、7月の昇格試験に挑戦する。
薄田さんはキャリアアップに興味はあったが「まだ先と思っていた」。年表作りで「そんなに時間があるわけでもない」と気付くきっかけになった。「マネープランを考えたことで自分が目指す未来が見えてきた」と前向きだ。
なぜ28歳が対象なのか。同社で研修を担当する人事部の関根綾佳副長は「28歳は結婚や出産といったライフイベントを控えた人が多く、自分の将来に不安になる頃。30代からキャリアを考え始めるのでは遅い。早いうちにライフもワークも諦めなくていいことに気付いてほしい」と話す。
年表でキャリアアップに刺激 積水ハウスの池田有里さん
積水ハウスも昨年、営業職の女性社員を対象に「キャリア&ライフ&マネー研修」を実施した。つくば市の住宅展示場勤務の池田有里さん(29)は研修で自分の40年後までの年表を作成。毎年仕事の目標は立てているが、「40年後となると全く想像できず作るのが難しかった」と話す。
池田さんが研修で最も印象に残ったのが、講師のファイナンシャルプランナー(FP)の「正社員とパートでは生涯年収が2億円ぐらい違う」という話。出産しても仕事は続けたいと思っていたが、「出産して子育てと両立するのが難しそうであればパートでもいいかなと考えていた」。
しかし、今回の研修で初めてマネープランを立ててみたことがキャリアアップへの刺激になった。「これまで仕事を頑張ってきたし、まずは正社員でのキャリアを模索したい」と話す。そのためにも、出産前にある程度のキャリアを積んでおきたいと考え、FPやインテリアコーディネーターなど仕事で必要な資格の取得を目指している。
池田さんは今年5月に結婚し、研修で作った年表を夫にも見せた。海外研修の希望や自宅を購入したい時期など、夫も自分の考えを話してくれたという。「お互いのキャリアは大切にしたい。年表で家族の未来をシミュレーションしたことで、何を優先すべきかが分かって良かった」
将来の貯蓄への不安感から、自分の働き方を見つめ直す女性は少なくない。ワイズアカデミー(東京・渋谷)が開く女性のためのお金のため方や投資勉強会「富女子会」には、20代後半から30代の女性が集まる。会の設立から約8年がたち、現在は約250人の会員を抱える。
設立者の永田雄三社長は「いざ結婚を意識し始めると年収の高い男性が見つからない。昔と違って結婚がゴールではなくなり、自分で稼がなくてはという危機感を持つ女性は多い」と話す。最近は企業の副業解禁を背景に、他の収入源を模索するために富女子会に参加する30歳前後の女性も増えているという。
女性が多様な働き方を選べる時代になった。20代から自分のキャリアを考えるのは早すぎることではない。まずは仕事や私生活、お金に関わる不安感を書き出し、仲間と話し合うことが女性が望むキャリアを実現していくための支えになるのかもしれない。
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成長の機会、前倒し必要 ~取材を終えて~
「キャリアアップは必要か。長く働ければ満足」。ある企業の女性社員向け研修で耳にした。女性活躍推進法の施行から2年強。企業の動きは増えるが、昇進に消極的な女性は多く女性管理職育成への壁は依然と高い。
今回、将来のマネープランを考えることで昇進意欲が高まるとわかった。さらに国立女性教育会館(埼玉県嵐山町)は「女性のキャリア意識を高めるためには、入社間もない時期から成長を先取りさせる必要性がある」と独自の調査をもとにまとめている。
管理職を希望する男女を比べたところ、成長速度の男女差は2年目まではほとんどないが、3年目になると男性の方が速くなった。同館の島直子研究員は「男性同期よりも上司から期待されないなど、あきらめを感じる経験をしているのかもしれない」と分析する。早くから成長の機会を与えることが女性のやる気を引き出す。
(潟山美穂)
[日本経済新聞朝刊2018年7月2日付]
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