窓の外に日よけ・夜間の換気… 熱中症を防ぐ住まい方
夏に注意したいのが熱中症。そこで、環境省主催「平成30年度熱中症対策シンポジウム」より、京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授の松原斎樹さんによる話を紹介しよう。
自宅というのは基本的に安心できる空間だ。仕事を終えて家に帰ってきた瞬間は誰しもホッとするし、ほとんどの場合、屋外にいるよりも安全なのは間違いないだろう。ところが「統計を見ると、交通事故で死ぬ人よりも家の中の事故で死ぬ人の方が多いんです」と松原さんは指摘する。
2015年の厚生労働省「人口動態統計」によると、交通事故で亡くなった人が5646人に対し、浴室での溺死など家庭内での不慮の事故で亡くなった人は1万3952人と2倍以上。一方、この年の熱中症による死者は968人であり、その4割は室内で亡くなっている。屋内で熱中症になって亡くなる人は決して少なくないのだ。
熱中症は高齢になるほど重症化しやすく、亡くなった人の80.7%は65歳以上の高齢者だった。特に高齢者は気温の変化に気づきにくいうえ、冷房を嫌う人が多いこともあって、屋内で発症するケースが多い。こと熱中症に関しては、自宅にいれば安全とはとてもいえない。
もっとも、史上最悪1731人の死者を出した2010年以降、熱中症に関する啓発が進み、今では「家にいても熱中症になる」ことは多くの人が知っている。猛暑の季節はヘンに我慢せずエアコンを積極的に利用すべき、熱帯夜のときはエアコンをつけっぱなしにして眠ったほうがいい、といった知識もかなり普及してきた。しかし、「エアコンの利用だけでは十分とはいえません。住環境で工夫できることはほかにもあります」と松原さんは注意する。
窓から流入する日射熱を防ぐ
「住環境における熱中症対策で多くの人が見落としているのは日射遮へい、すなわち日よけです。屋内での体感温度には気温、湿度、気流のほか、窓から流入する日射熱が関係しています」(松原さん)
窓に直射日光が当たっている夏の日、エアコンをつけていてもあまり効果が感じられないと思ったことがある人は多いだろう。決して気のせいではない。室内のカーテンを閉じていても、窓枠やガラスが温められることで室内に熱が放射されて気温が上がるという。
一方、窓の外にすだれやシェードを設置すると、窓にダイレクトに日光が当たらないため日射熱が入ってくるのを抑えられる。「さらにエアコンと扇風機を併用して体に風を当てると体感温度は大きく下がります」と松原さんは話す。
南だけでなく、東西の窓も要注意
このように、室内に入ってくる日射熱を抑えるコツは「窓の外」に日よけを使うことだ。同じブラインドを使った場合でも、窓の内側に設置したときは約半分の熱が室内に入ってくるが、窓の外側に設置すれば室内に入る熱は2割程度に抑えられる(図1)。
なお、ベランダにすだれやシェードを使うときは、窓と平行につり下げるよりも、テントのようにベランダ全体を覆う形がいい(図2)。直射日光をさえぎって日陰にすることによって「ベランダの気温が低くなり、さらに室内に入ってくる熱も少なくなります」と松原さん。
一戸建てで庭がある場合、芝生を植えるのもいい方法だ。アスファルトや土に比べて地面からの照り返しが少なくなり、屋内に入ってくる熱が減る。
もう一つ、注目したいポイントは「窓の方角」だ。
日よけというと、つい日当たりのいい南の窓を重視しがち。ところが夏の場合、実際に当たる日射量(熱)は南よりも東や西の方が多くなっている(図3)。
「1平方メートル当たりの日射熱を見ると、南面はピークの12時ごろでも200ワット程度。それに対して、朝(7~9時)の東面、夕方(15~17時)の西面はそれぞれ約600ワット。南面の3倍もの日射熱が入射します」(松原さん)
夏は太陽高度が高くなるため、南の窓は意外と直射日光が当たらない。しかし朝と夕方は太陽高度が低いので、東西の窓はよりストレートに日光が当たることになる。ちなみに1平方メートル当たり600ワットということは、幅2メートル高さ2メートルの西向きのガラス窓で日よけがない場合(透過率0.9)、直達日射量は1000ワットの電気ストーブ2台分に相当する。南よりも、むしろ東西の窓の日よけを重視しよう。
松原さんらは高齢者の家の屋外にシェードを取りつけて、室温の変化を調べた。室温が下がった家は10軒中9軒。シェードで直射日光をさえぎるだけで、0.5~1℃ほど室温が下がることが確認されたという。
換気のコツは1階と2階の窓を開けること
長時間エアコンを使いたくない人は、上手に換気して体感温度を下げる工夫をするといいだろう。
換気のタイミングは夕方から夜にかけて。室温よりも屋外の気温の方が高い昼間は、窓を開けると熱い空気が入ってきて逆効果だが、一般に夕方以降は屋外の気温の方が低くなるので、窓を開けると冷たい空気が入ってきて室温が下がる。
一戸建ての場合、1階と2階の窓を開けるのがコツだ。日射により屋根が加熱され、熱い空気は上に行くので、夏に閉めきっている家は1階よりも2階の方が暑くなる。そのとき両方の窓を開けておくと、内外の温度差によって換気が起こり、涼しさを感じられるという。
このように、熱中症にならない快適な住環境をつくるには、エアコン以外にも工夫すべきことがある。とりわけ室内に熱を入れない効果が高いのは日よけを使うこと。室内ではなく、窓の外に。南だけでなく、東と西も。換気は日が暮れて涼しくなってから、1階と2階の窓を開けて空気を大きく動かす。
これらの対策を取り入れて、屋内での熱中症を防いでほしい。
(ライター 伊藤和弘 図版制作 増田真一)
京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授。1955年、岐阜県生まれ。京都大学工学部卒業。三重大学工学部助手、京都府立大学生活科学部助教授などを経て、99年に京都府立大学人間環境学部教授に就任。2008年から現職。人間-生活環境系学会会長。共著書に『図説 建築環境』(学芸出版社)など。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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