池田エライザはこじらせ女子? 本とギターで幸せ
2018年は6本もの映画に出演し、女優としてブレーク中の池田エライザさん。家にいるのが大好きという彼女が披露してくれたモノは、「どんどん増えて、お金を注ぎ込んでいる」というギターだ。
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ボブ・ディランと同じギターを購入してしまいました
「ギターを始めたのは、中学3年のときです。もともと家にお父さんのギターがあったので触ってみたんですけど、その時は弾けなくて、挫折したんですよ。その後、高校でギターの授業があったのに、仕事で行けなくて……。悔しかったし、授業についていけなくなるのも嫌なので、一人でめっちゃ練習したんです。そうしたらみんなより弾けるようになっていて、学校に行ったら『まだみんな簡単なGのコードしか弾けてない……』みたいなことになって(笑)。
それからずっとギターの練習を続けて、弾き語りしたり、好きなコード進行で曲を作ったりしています。好きなジャンルはカントリー。日本ならフォークも好きですね。あと、ゆらゆら帝国(10年に解散した日本のロックバンド)とかも大好きです(笑)。ギターの練習を始めると夢中になってしまって、もう、何時間でも弾いていられます」
「音質よりも、まずは練習」と長らくギターにこだわることはなかったが、一本のギターとの出合いで変わったという。
「もしかしたら、もっと体に合うギターがあるかもしれない、と思って、1年くらい前に楽器屋に行ってみたんです。そこでいろんなギターを弾いてみたら、『サイズがピッタリだ!』というものがあって。それが、このボディーが青の、きれいなギターでした(写真の右から2番目)。これはパワー系で、アコギ(アコースティックギター)だけど、ロックも弾ける出力の大きさがあるんです。そして、けっこうなジャンボサイズ。この前、ウチに来た上白石萌音ちゃん(女優・歌手)に持ってもらったら、大きすぎて引きずりそうになってましたね(笑)。私には、こういう大きいサイズが体に合うんだな、と思いました。
そこからギター自体に凝り始めて、次に買ったのが、隣の、花柄のピックガードが付いたギターでした。これも、かなり大きめのサイズ。あのボブ・ディランと同じ型のギターなんですよ。
これを買ったのは、大阪でした。番組の宣伝で大阪に行ったときに、『いい楽器屋さんがある』と聞いて、わざわざ延泊して、行ってみたんです。そのお店で『あ、ボブ・ディランのだ!』と気付いて、見ていたら、『触ります?』と言われて。『いや、高いから!』と遠慮したんですけど、『一回、触ってみてください』と勧められて弾いたら、『いい音~!』となって(笑)。倍音の響きがすごく良くて、弾き語りすると、歌によく合う感じなんですよ。そして弦高が低くて、私には弾きやすい。それでまんまと購入することになって、付属の派手なクロコダイル皮のハードケースに入れて、『重いなっ、重いなっ』って言いながら、大阪から持って帰りました。
真ん中の子は、もともと持っていたギターです。そんなに高いものじゃないんですけど、外国のおじいちゃんが道端で弾いている感じの、ちょっとカントリーな音が出る。すごく親しみの持てる音がします。
奥にあるのが、エレキ。これは「スギ・ギターズ」という日本の職人さん(杉本眞氏)が作っているギターで、エレキだけど、音質も含めて上質で、味わいがすごく深い。私のちょっと枯れてる声に合うなと思いました。って、ギターの話を語り出したら止まらないんですけど(笑)」
そんなエライザさんの憧れのギタリストとは。また、彼女をそこまで熱くさせるギターの魅力とは?
「好きなギタリストは、おじいちゃんです。母方のおじいちゃんが映画俳優で、ギターを片手に、フィリピンでコメディをやってたんです。わりとハゲてるおじいちゃんなんですけど、スパニッシュギターを弾いているときは、すごく艶っぽくてカッコイイ。憧れてます。
ギターの魅力は、お芝居と一緒で、限界がないところです。やってもやっても納得がいかないし、いくらでも上がいるから、いくらでもがんばれる。『終わりがないな』と思わせてくれるから絶望しないし、希望が湧いてくる。女性だからって、言い訳させてくれないのも、ギターの魅力だと思います」
アヒルの「ジョセフィーヌ」と乗り越えた主演第2作
18年7月7日公開の主演映画は「ルームロンダリング」。自殺や他殺などが起きたワケあり物件に短期で住み、そのブラックな履歴を帳消しにする「ルームロンダリング」のアルバイトを始め、部屋に居座る未練たっぷりの幽霊たちとルームシェア生活を送る20歳の「人生こじらせ真っ最中」御子(みこ)を演じる。
「原作モノではなく、オリジナル脚本の作品です。初めて脚本を読んだときは、すごく素敵(すてき)な話だなあと思いました。聞くと、監督と脚本家の男性2人が、居酒屋で『みんなが怖いと思っているお化けにも、こういう人がいるかもしれないね』とか『人付き合いが苦手な人って、こういう気持ちがあるよね』と話しながらできていったと。それを聞いて、なおさら心が温かくなったというか。好きだなあ、いとおしいなあ、と思いました。
御子ちゃんは友達もいないし、彼氏もできたことがなくて、お化けに『あなた、化粧っけないわね!』なんて言われちゃう女の子。でも、だからってひねくれているわけじゃなくて、こじらせてるんです(笑)。私も3日休みがあれば、3日家にいられるタイプ。でも御子ちゃんほど内弁慶ではないし、育ってきた環境も違うので、どうやって御子ちゃんに近づいていこうかな、寄り添っていこうかな、と常に考えながら演じました」
印象に残っている小道具は、御子が常に持ち歩いているアヒルのランプだという。子供の頃、御子の父親がプレゼントしてくれたという形見の品だ。
「アヒルには名前がありまして、ジョセフィーヌと申します(笑)。ジョセフィーヌは、お化けが近づくと、光って教えてくれる。御子ちゃんにとっては唯一の仲間、家族みたいな存在です。
このジョセフィーヌが、かなり大きくてですね。衣装合わせのときも、『すごいサイズだなあ』とびっくりしてたんです。でも撮影が始まって、肌身離さず持つようになってからは、違和感がなくなって。現場でスチール(場面写真)を見せてもらったときに、『ずいぶん違和感なくアヒルを持ってるな』と自分でも驚きました(笑)。ハタから見るとヘンな子に見えるかもしれないですけど、持ってると安心しましたね。
そんな御子ちゃんが、幽霊と触れあい、外の世界の人たちとも関わるようになって。そこで見えてきた新しい世界の中で、新しい感情を知って、新しいものをつかんでいく。『ルームロンダリング』には、こじらせて悩んでいる女性や、もしかしたら男性も共感できるところがあると思っております。ぜひたくさんの方に見ていただきたいので、このコメントを、記事のどこかに入れ込んでいただけるとうれしいです(笑)」
本とギターに囲まれて、日々幸せです
ジョセフィーヌのように、エライザさんにも捨てられず、引っ越しのたびに次の部屋へ持っていくものはあるのだろうか。
「次がどんな物件であろうと、本棚はまるごと持っていきますね。長方形や正方形の枠がバランス良く組み合わさっているような木製の本棚なんですけど、そこに本を収めるのが好きなんです。だから家に帰って時間があるときは、本を並び替えたり、断捨離したり。けっこうな時間、本棚の前にいますね。ほかにも壁一面に四角い枠があって、そこにも全部本が並んでいる。部屋は、本だらけです(笑)」
雑誌『ダ・ヴィンチ』で書評の連載を行うなど、無類の本好きとして知られる。『ルームロンダリング』の主人公は、エライザさんの愛読書の一つ、ジョルジュ・サンドの『愛の妖精』のヒロイン・ファデットに通じるものがある(注・ファデットはフランスの農村地帯に育ったこじらせ系の野生少女で、双子の兄弟との出会いをきっかけに、女性として変貌を遂げていく)。
「ファデットのように、心を開いて、知らない世界に足を踏み入れる。その勇気を持った者が、本当の幸せをつかむことができると思いますし、そうであってほしいなと思います。
私自身も、そこは一番努力しているところですね。知らない世界に対して偏見を持ちがちな世の中だけれど、そこで足を止めることほど、もったいないことはないと思っていて。ファデットの生きざまが、自分の教科書になっているなと感じます。
最近、ありがたいことに、毎月、いろんな新刊が届くようになったんですよ。作家さんから手紙もいただいたりして、『キャー! この作家さんから手紙がっ!』って、もう、泣きそうなくらい喜んでます。
読書は私にとって大事な息抜きなので、忙しくても、毎日、何か読んでますね。本が好きだから、あふれても捨てたくないし売りたくない。それで後輩に配ったりしてるんですけど……そろそろ嫌われちゃうかな(笑)。
日々、本とギターに囲まれて、幸せです」
1996年生まれ、福岡県出身。2009年、雑誌「ニコラ」のモデルオーディションでグランプリを獲得してモデルデビュー。15年、園子温監督の映画「みんな!エスパーだよ!」のヒロインに抜てきされ、女優の仕事が急増。17年に「一礼して、キス」で映画初主演、「ぼくは麻里のなか」でドラマ初主演を飾った。主な映画に「トリガール!」(17年)、「伊藤くんA to E」(18年)、「となりの怪物くん」(18年)など。「SUNNY 強い気持ち・強い愛」が8月31日、「億男」が10月19日に公開予定。リリー・フランキー氏と共に音楽番組のMCとしても活躍中。
『ルームロンダリング』
18歳で天涯孤独になってしまった御子のもとに、母親の弟である悟郎が現れ、住居とアルバイトを用意してくれる。しかしそのバイトとは、他殺や自殺があった「事故物件」に住み、次の借り手にその事実を伝える報告義務を帳消しにするというもの。事故物件を転々とするなかで、御子は部屋に居座る幽霊が見えるようになり、やがて彼らの無念を晴らそうと奔走し始める。監督・片桐健滋 脚本・片桐健滋、梅本竜矢 出演・池田エライザ、オダギリジョー、渋川清彦、健太郎、光宗薫、木下隆行、つみきみほ、田口トモロヲ、渡辺えり 7月7日(土)全国ロードショー
(文 泊貴洋、写真 藤本和史)
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