あいみょん 過激な歌詞で人気、官能的表現にも挑戦

2016年にデビューした、兵庫県出身の23歳の女性シンガー・ソングライター、あいみょん。愛くるしいルックスからは想像できない、聴く人の心に大きな爪痕を残す歌詞と、アコースティックギターから生み出す多彩なサウンドが特徴だ。

1995年生まれ。音響関係の仕事をしていた父親の影響で中学生のころから作詞作曲を始める。2017年9月に初のフルアルバム「青春のエキサイトメント」をリリース(写真:藤本和史)

インディーズ時代の楽曲『貴方解剖純愛歌~死ね~』(15年)では、「死ね。/私を好きじゃないのならば」と過激すぎるほどの愛情をバンドサウンドとともに歌い、デビュー曲『生きていたんだよな』では、ある少女の自殺のニュースを題材に、死生観を1980年代風歌謡メロディーに乗せて歌い上げた。

「父親の影響で、浜田省吾さんや河島英五さんなどの楽曲に小さい頃から触れていました。学生時代にはスピッツや東方神起などいいと思った曲は何でも聴いてきたのでジャンルにとらわれずに音楽をやりたいんです」

今年に入ってからは、『関ジャム 完全燃SHOW』『ミュージックステーション』(ともにテレビ朝日系)、『SONGS』(NHK総合)と、人気音楽番組に立て続けに出演。もともと高かった音楽関係者からの評判に加え、より幅広い層から注目されるようになった。

「メディアに出たいという気持ちはそこまで強くなかったんですが、『Mステ』が決まった時は自然と涙が出ました。最近は忙しくなって、曲作りの時間を昔ほど確保できていないぶん、創作意欲が高まっています」

リズミカルなドラムにアコースティックギターが絡む最新シングル『満月の夜なら』は、男女の魅惑的な夜を官能的に描いた新境地のラブソングだ。冒頭から「君のアイスクリームが溶けた/口の中でほんのりほどけた」と意味深なフレーズを並べる。

『満月の夜なら』 タイトルには「完全じゃない2人でも満月の夜であれば、完全な円形となるよう溶け合って一つになれるんじゃないか」という意味があるそう(ワーナー/1000円・税別)

「最近の女性ソロアーティストで、官能的な表現を使う人って意外と少ないのかなって。私は桑田佳祐さんや平井堅さんのように、巧みな比喩でいやらしいものでも芸術的にたとえる歌詞が好きなんです。官能小説も表現力の勉強になるので読みますよ」と笑う。

カップリング曲の『わかってない』では、メロウなサウンドに乗って、男性に対するもどかしい女性の気持ちを歌う。

「女の子の言う『分かってない』って、相手の男性に分かってほしいけど、全部分かってほしいわけじゃない、すごく複雑な感情なんです」。そして続けて、「あとこれは、私のことを『ギター女子でしょ』って言い切っちゃうような人に向けての、分かってないでもあります(笑)」

今後は「男性のゲストボーカルを迎えて、男女編成の曲にも挑戦してみたい」と語る彼女。これからも新たな楽曲やスタイルで、ファンを増やしていきそうだ。

(「日経エンタテインメント」6月号の記事を再構成 文/中桐基善 写真/藤本和史 スタイリスト/服部昌孝)

[日経MJ2018年6月29日付]