ユーチューブのCGアイドル 「Vtuber」が人気爆発

「キズナアイ」は人格のあるAIとして、「親分」とも呼ばれるVtuberの元祖にして圧倒的No.1。毒舌も交じるトークが人気。実は17年2月頃から、韓国など海外で先にブレイクした(c)Kizuna AI
「キズナアイ」は人格のあるAIとして、「親分」とも呼ばれるVtuberの元祖にして圧倒的No.1。毒舌も交じるトークが人気。実は17年2月頃から、韓国など海外で先にブレイクした(c)Kizuna AI
日経トレンディ

動画の投稿・配信サイト「ユーチューブ」で異変が起きている。「外見がコンピューターグラフィックス(CG)やイラストの美少女」であるユーチューバー(※)が増えているのだ。しかも、人気度が半端ではない。チャンネル登録者数が50万人を超えるユーチューバーだけで、すでに4人。人気首位の「キズナアイ」は登録者数193万人を超え、国内の全ユーチューバーのベスト30に食い込んでいる。

2016年12月に活動を始めた草分けのキズナアイが自称したことで、彼女たちは「バーチャルユーチューバー(Vtuber)」と呼ばれるようになった。そして17年下半期以降に「ミライアカリ」「輝夜月」など今や人気上位となったVtuberが活動を始め、12月頃から認知度が爆発的に上がり始めた。18年4月にキズナアイがテレビ番組「キズナアイのBEATスクランブル」(BS日テレ)のレギュラー出演を始めるなど、活動のフィールドは動画サイトの外まで広がり始めている。

「キズナアイ」のチャンネル登録者数は193万人(c)Kizuna AI
「ミライアカリ」は17年10月デビュー。頑張り屋の性格が受けて四天王の一角に。コンテンツ制作会社のDUOが約 10人のチームで運営(c)2018 ミライアカリプロジェクト

Vtuberの人気の秘密は、彼女たちがあくまで「生身の存在」という点にある。キャラクターとは異なり、生配信にも登場して視聴者と会話できる。なぜなら、裏側には人間の演者がいて、少女のCGは人間の動きや表情と連動する仕組みになっているからだ。

「東雲めぐ」はSHOWROOMの生配信で活動する。活動開始は18年3月だが、瞬く間にファンを増やしSHOWROOMのトップクラスに。配信中は投げ銭がぬいぐるみなどの形で降り注ぐ(c)うたっておんぷっコ♪/(c)Gugenka from CS-REPORTERS.INC

人間の全身の動きを読み取る「モーションキャプチャー」装置の低価格化など、技術面での進化も背景にある。演者に加えてCG技術者などの人材も必要なため、小規模な映像制作会社などが運営するケースが多いが、個人で活動するつわものも登場してきた。

魅力的な外見を持ちながら、ファンと生身のやりとりができ、しかもトーク力が極めて高い。そんな「理想のアイドル」が毎日のように動画をアップすることで、視聴者は圧倒的な親近感を持ち、熱狂的ファンへと育っていった。

最近Vtuber事業に参入したサイバーエージェント系列のCyberZは「Vtuberという仕組みが、日本の眠れる人材を大量に発掘し始めている」と期待を寄せる。何らかの理由で素顔をさらせない人のなかにも、トーク力や企画力に秀でた人材は多いからだ。

あくまでバーチャルだが、Vtuberをより身近な存在に感じられる場所も増えつつある。個人がVR空間で交流できる米国のサービス「VRチャット」だ。ここに人気のVtuberが参加するケースが増え、日本人ユーザーが増加中という。

また、ドワンゴは誰もがVtuberとして生配信でき、その配信中に視聴者が「スタジオに乱入」もできる「バーチャルキャスト」を4月に始めた。配信中に視聴者が「スタジオに乱入」も可能。複数の人気Vtuberが共演したケースもすでにある。

高いスター性と近い距離感を両立したVtuber。今後も新たな才能が次々と現れ、エンタメ界で存在感を発揮し続けそうだ。

「バーチャルキャスト」では、ニコニコ生放送の売りである視聴者コメントは3Dで降ってくる

※ ユーチューブに自主制作した動画を投稿し、再生回数などに応じて得られる広告収入などを得ているクリエーター。

(日経トレンディ 臼田正彦)

[日経トレンディ 2018年7月号の記事を再構成]

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