バリカタ、シルブプレ! パリ市民豚骨ラーメンに行列
パリで話題の日本の豚骨ラーメン店「HAKATA CHOTEN(博多ちょうてん)」は、2015年にパリに1号店をオープンして以来、行列のできるラーメン店としてパリ市民に愛されている。2017年にパリにオープンした2号店と合わせると、ここ3年間で累計24万人超が来店。現地の格付ブログではラーメン・ギョーザともに1位を獲得したり、メディア「Time Out」にてThe 100 best restaurants in Parisにランクインしたりと、常に話題をさらっており、パリ市長からそれを祝福する手紙も受けとっているほどだ。
世界的にも大ブームとなっている日本のラーメンだが、フランス人は特に豚骨スープが好きなのだという。「HAKATA CHOTEN」を経営する現地法人JFPM GLOBAL SARL代表取締役の福田健一氏は、「何時間も煮込んで作る手の込んだ豚骨スープは、フランス料理のフォンドボーやソースなどの仕込みに共通するものがあるのかもしれません。口コミサイトでも、ラーメン店なのにスープの味のコメントばかりが多いです」と話す。
同店では24時間以上、店内でじっくり煮込んだ濃厚な豚骨スープを「呼び戻し」(新しいスープを古いスープに継ぎ足して作る手法)という伝統的なスタイルで作り上げている。とてもまろやかで、深い味わいの伝統的な博多ラーメンの豚骨スープで、現地フランス人やパリ市内の観光客などを「トレビアン!」とうならせているのだ。
しかし人気の秘訣はそれだけではない。同店では、日本のラーメン店同様に、麺の硬さは「軟らかめ―普通―固め」の3種類から選べ、さらにスープも「あっさりー普通―こってり」の3種類から選べるようにしているのだ。このマニアックで細かすぎる日本ならではの注文スタイルに、「日本人って、細かすぎる!」「なぜそこまでこだわるの?日本人らしい」「どう違うの?」と、興味津々のフランス人に大受けているというのだ。
福田氏は「オープン当初は、スープと麺は選べなかったが、こだわりのラーメンをフランスのお客様に提供したいという思いで、オペレーションが慣れてきたオープン半年後には、麺もスープも3パターンから選べるようにして、日本のラーメン店らしく本場風にしたのです」と説明する。麺もスープも3種類から選べるラーメン店は、現地でも珍しい存在だという。
ラーメン初心者を含めた来店客の2割くらいは、それほど麺やスープにこだわりがないので、麺もスープも「普通」で注文してくるが、週に3~4回も来店する常連客や、1日に2回も来店するファン客からは、「麺はバリカタで」などの注文が入っているという。中には必ず「スープあっさり」で注文してくる女性や、毎回「バリカタ&こってり」の組み合わせで注文してくる男性客などもおり、こういったラーメン通のお客が全体の8割もいる。まるで日本の人気ラーメン店に通うヘビーユーザーのようで、驚かされる。
しかも驚くのは、麺固めの「バリカタ(barikata)」や、スープ濃いめの「こってり(Kotteri)」などのラーメン用語を、メニュー表ではフランス語や英語でも説明しているにもかかわらず、日本語で現地に定着しているのだ。「バリカタ シルブプレ!」(バリカタ、お願いします!)のような会話が店内で飛び交うというのだからユニーク。
「替え玉(kaedama)もすでに定着していますよ」と福田氏。同店ではメニュー表で替え玉のことを次のようにフランス語と英語と日本語で説明しているのだが、これがまた細かい。
「麺と具を食べ終わり、お腹に余裕がある場合は『替え玉』をして麺を追加注文します。麺は熱いスープに浸ってしまうと伸びてしまいますので、最後までおいしい麺を食べてしまいたいということで『大盛り』ではなく『替え玉』という方式が登場しました」
日本人にとっては替え玉=お代わり麺は普通の習慣だが、最初から麺を大盛りにしない理由を丁寧に説明することで、伸びる前の麺のコシを楽しむことが日本のラーメンでは大事であることをフランス人に伝えているのだ。ほかにも同店のメニュー表の「ラーメンの食べ方」の説明を見ると、思わず微笑んでしまうような丁寧すぎる説明がある。
「(ラーメンが提供されたら)まずは両手で丼を触り、その温かみを体で感じ取ります」「スープをレンゲで一口すすり、舌の上でじっくりとコクや旨味を確かめるように味わいます」「一口で食べられるくらいの麺の量を箸でつかみ、口へ運びます。熱い場合は、口で息を吹きかけ冷ましながら食べます」
ここまで詳しく食べ方を説明するとは、日本人から見てもかなりマニアック!だがそのマニアックぶりが、フランス人やパリの観光客に、日本のオタク文化を垣間見たような気持ちにさえさせてしまい、大人気というわけなのだ。どの麺とどのスープが自分の好みに合っているのか、ベストな組み合わせにたどり着くまで、いろいろ試して注文してみるお客も少なくないという。
箸使いがぎこちないお客にはフォークも提供しているが、一方で、麺を日本人のように豪快にすすって食べるフランスのラーメン通も少なくないという。「アニメでラーメンを食べているシーンを見て、ラーメンに興味を抱いて来店するお客様もいらっしゃいます」と福田氏。フランスでジャパンエキスポや日本祭りなどの日本関連のイベントが開催される時期には、日本のアニメ(ONE PIECEやセーラームーンなど)のコスプレ姿で来店する客も多数いるという。
「日本にあるラーメン屋のイメージではなく、ラーメン・レストランとして営業しているので、テーブルには箸や紙ナプキンなどもきれいにテーブル・セッテイングしています」と福田氏。大きな箸入れに箸がまとめて入れられてテーブルに設置してあり、自分で自由に箸をとるスタイルの店も多い中、同店では箸の向きまで統一されてテーブルに美しく置かれているので、その光景にとても感動する客もいるという。
同店ではラーメン丼などの食器は有田焼を使っているのだが、有田焼のことをよく知らないフランス人にも、「真っ赤な丼がカッコいい!」と好評だ。さらに店内は日本人デザイナーが手がけた神社の鳥居をイメージした空間。赤と黒を基調としており、日本の伝統文化を感じられる雰囲気になっている。
店内のBGMにはいつも代表的なJ-POPを流している。有田焼と鳥居とJ-POPとラーメン。日本人からみると、一見チグハグな組み合わせのようだが、フランス人には「日本を存分に体感できる店」として好評なのだ。
しかし、逆にフランス人に不評なものもある。「ラーメンのトッピング具材である真っ黒い海苔は、黒い見た目を不気味と感じるフランス人も多いようで、何だかよくわからない、という感じで食べ残すことが多いですね」と福田氏は苦笑い。
また日本のラーメン店のように、「食べたらすぐ帰る」という文化が定着していないので、夕方の来店時にまずラーメンを1杯食べて、その後、閉店時間まで4時間近くビールだけを飲み続けて長居するお客もたまにいるという。おしゃべりがとまならい話好きのパリ市民が多いらしく、すでに満腹なのでつまみなどは一切注文しないで、ビールだけ飲み続けるお客も珍しくない。これも日本ではありえない光景だ。
同社はパリに「HAKATA CHOTEN」を2店舗展開しているのみだが、同じ系列企業はハワイに居酒屋も経営している。福田氏は、「グローバルな展開を通して、世界に日本の食文化の魅力を伝えたい」と話す。
パリでは「日本祭り」と題した屋台祭りなどもたまに開催されるのだが、そういったイベントにも同店は積極的に参加しており、日本の豚骨ラーメンをパリ市民にアピール中だ。「今後は店内で日本の文化やアニメ好きなフランス人などを集めたイベントも開催してみたいです。浴衣やコスプレなどで日本文化を楽しみつつ、HAKATA CHOTENのラーメンを召し上がっていただきたいです」と福田氏は語る。
(GreenCreate)
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