ニシキヘビがまた人を丸のみに 被害なぜ増える?
インドネシアで、人が大型のヘビに丸のみにされる事故が発生した。被害者は54歳の女性。畑仕事をしていたときに、体長7メートルのアミメニシキヘビに襲われたものとみられる。
現地の報道によると、女性が帰宅しなかったため捜索を行ったところ、近くで腹を大きく膨らませたヘビが見つかったという。腹を割いてみると、丸のみだったのだろう、中から女性の遺体が外傷のない状態で現れた。
1年ほど前にも、同じインドネシアで25歳の男性がアミメニシキヘビに丸のみされる事故が起きている。こうした事故が起きるたび、問題となるのが人とヘビの摩擦だ。ヘビが人間を襲う確率が高まっているのは、人間による開発が影響していると考える人もいる。本当にそうなのだろうか。複数の専門家に意見を聞いた。
ニシキヘビが人を死に至らしめる方法について、米フロリダ自然史博物館のマックス・ニッカーソン氏に聞いた。
「締め付けて人の心臓を止めるのです。あっという間の出来事なので、驚かされます」。ニッカーソン氏は、ペットとしてアミメニシキヘビを飼っている。ヘビの個性はそれぞれ異なるものの、このヘビは総じて「怒りっぽい」という。獲物を殺すときは、噛みついて巻き付き、血の流れが止まるまで締め付ける。
米ペンシルベニア州にあるディキンソン大学の脊椎動物生態学者スコット・ボバック氏は、この種のニシキヘビは待ち伏せが得意だと話す。自分から獲物を探し回るのではなく、じっと待ち構えて、近くを通りかかった獲物を狙うのだ。
「アミメニシキヘビなど、待ち伏せ型のヘビは、舌を使ってまわりの状況を感じ取ります」とボバック氏。「獲物となる動物が往来の際に発する化学物質を感じ取り、その近くに身を潜めるのです」
ヘビはなぜ人を殺すのか
アミメニシキヘビは、決して頻繁に人を襲うわけではない。ふだん食べるのは哺乳類(シカくらいの大きさまで)や鳥。ときにワニなどの危険な獲物を食べる姿が目撃されることもある。
2017年3月にインドネシア人男性が被害に遭った際、専門家たちは森林伐採が原因ではないかと考えた。同国ではパーム油産業のための森林破壊が進んでいる。生息地の森を追われたヘビが、いつもとは違う獲物を狙わざるをえなくなったのでは、という見解だ。
「大型のヘビは樹上を好み、食料の多くを森や木で得ています」とニッカーソン氏は言う。生息地が失われれば、別の手段で生き延びるしかない。
しかし、女性を襲ったヘビも同じく生息地を追われたかどうかは、今のところわかっていない。また、ボバック氏によると、人間とヘビとの摩擦は今に始まったことではない。
「人間と大型のヘビは、はるか昔からずっと関係があったのです」とボバック氏は言う。研究によれば、人間の脳には、ヘビを見て恐怖を感じる機能が進化の過程で組み込まれた可能性もあるという。
進化をともにしただけではない。2011年に発表された研究によると、フィリピンのジャングルに暮らすある部族は、ヘビとの争いを続けてきたという。調査によれば、その村の男性の26%がニシキヘビに襲われた経験を持っていた。
人がヘビに襲われる事故が実際に増えていると結論づけるには、さらなる調査が必要だ。ボバック氏は、生息環境が少しでも変化すれば、ヘビの行動も変化する可能性があると言う。ただし、どれほど変化するとヘビが人を狙わざるをえなくなるのかは、まだよくわかっていない。今回のようなニュースが目立つようになったのは、単にソーシャルメディアやカメラが普及したことが要因である可能性もある。
(文 Sarah Gibbens、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年6月21日付]
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