無料学習指導「自分がやるしかない」 渡辺由美子さんNPO法人キッズドア理事長(折れないキャリア)

2018/6/30

「生活保護を受ける世帯の子どもに、大学進学時に必要な費用を給付する制度をつくれないだろうか」。厚生労働省の審議会で働きかけた。生活保護世帯では、制度上新生活に向けた貯蓄は制限されており、4月の物入りの時期に所持金ゼロのことも多いという。学習支援のNPO法人を運営するなか、実態を知った。

千葉大工卒業後、西武百貨店、出版社勤務を経てフリーランスに。2007年キッズドアを立ち上げる。54歳。

新卒では百貨店に入社、営業企画に携わった。売り場に立ちながら季節ごとの商戦をしかける日々は充実しており「毎日終電でも苦にならなかった」。その後百貨店を辞め、出産。フリーランスでは働いていたが、子どもや限られた大人との間で完結する毎日。社会とのつながりを感じられなかった。

現代の子育てには課題がある。なのに社会が問題と受け止めていないと、疑問を持つようになった。

転機となったのは夫の転勤だ。2001~02年、英ロンドン近郊で息子を小学校に通わせた。英国は階級社会。それだけに、生活困窮世帯の子どもが学校で惨めな思いをしないよう、学校やPTAがバザーなどで必要なお金を集め、分け隔てなく教育が受けられる仕組みが出来上がっていた。

一方、帰国して通わせた日本の学校では、給食費や修学旅行費など、様々な場面で集金があることに驚いた。息子の友人で母子家庭の子どもが夏休みに昼食を抜いていたり、どこにも遊びに行けなかったりしているということを知った。「こういう子たちがもっといるはずだ」。いても立ってもいられなくなった。

その頃、貧困の子どもの支援というと海外向け。日本の子どもを支援したいと団体を探したが見つからない。だったら自分がやるしかないと覚悟を決め、キッズドアを始めた。

学習機会に恵まれない子どもに来てもらおうと無料の英語イベントなどを企画したが、現れるのは有名ブランドのバッグを持った母と子ら。本当に困っている人に支援が届かない歯がゆさを味わった。経済的に苦しい家庭が望むことを模索、無料の学習指導に行き着いた。

自治体からの受託も増え、登録生徒は1500人を超える。キッズドアには「子どもと社会をつなぐドアでありたい」との思いを込めた。貧困を理由に進学を断念しなくてすむよう、ドアをノックし続ける。

(聞き手は天野由輝子)

[日本経済新聞朝刊2018年6月25日付]