いか焼きで1杯、スナックパーク復活 阪神梅田本店
2015年2月から建て替え工事中の阪神梅田本店が2018年6月1日、御堂筋側に面した1期棟をオープンした。地下1階から地上9階までの10フロア構成で、店舗コンセプトは「毎日が幸せになる百貨店」。日常使いに特化した品ぞろえを強め、非日常のラグジュアリーブランドをそろえる阪急うめだ本店との違いを鮮明にした。「すみ分けが明確になったことで結果的に顧客の買い回りにつながると思う」と、阪神梅田本店販売促進部ゼネラルマネージャーの松下直昭氏は話す。
今回の改装の目玉ともいえるのが食のフロア。なかでも話題を集めているのが、60年近い歴史がある立ち食いスタイルのフードコート「スナックパーク」の3年ぶりの復活だ。阪神といえばスナックパークが思い浮かぶほど大阪人にはなじみ深い名物食堂街だが、店舗の約半分が入れ替わり、新店8店舗を含む13店舗が出店。
また、スナックパークのすぐ上の1階路面には、NY発のハンバーガーレストラン「シェイクシャック」の関西1号店がお目見え。オープン初日は開店前に約300人が並び、その後も1、2時間待ちの人気ぶりだった。
西梅田ワーカーのちょい飲み狙う「立ち食いの聖地」
百貨店のデパ地下で、ここまで庶民的な飲食ゾーンがほかにあるだろうか。改装前から昼どきはいつも混雑していたスタンド式フードコート「スナックパーク」は1957年の開店時から営業。「早くて安くてうまい」をコンセプトに、せっかちで味にうるさく、値段に厳しい大阪人の舌に応え、いまや「大阪の文化」とまで評されている。建て替え工事に伴い、2015年にやむなく閉店したが、看板商品の「いか焼き」はテイクアウトでの展開を継続し、1日8000枚を販売してきた。
改装にあたっては、立ち食いスタイルと値段を見直す意見もあったが、従来からの基本コンセプトは変えず、新規で百貨店初出店の8店舗を導入。酒の提供も始め、夜のちょい飲みのニーズに応えたという。平日は15時~、土日は開店時間から半分の店舗でビールやワインなどのアルコールを提供している。閉店時間も22時まで延長し、席数は70席から130席に増えた。
「ワンコインでスピードランチ、夜はせんべろ(1000円でベロベロになるまで酔える)酒場が、新しいスナックパークのテーマ。出店店舗には女性が食べやすい手ごろな容量で500円か600円の料理を作ってもらった。料理ができるとブザーが鳴るフードコートではなく、その場で待っていれば2~3分で出てくる。滞在してのんびりというよりは、さっと食べられて安くておいしい。この三拍子がそろった京阪神の名店を集めた」と、スナックパークを開発した阪急阪神百貨店フード営業統括部生鮮・惣菜商品部長の中尾康宏氏は話す。
新たに仲間入りしたのは中華そばの「カドヤ食堂」、タレ焼肉丼の「牛焼き みらく」、天丼の「天ぷらの山」、海鮮居酒屋の「立ち喰い魚 ふじ屋」、うどんの「とり天うどん てんぼう」、にぎり寿司の「寿司 魚がし日本一」、焼きスパゲッティとワインの「ROMA-KEN」、お好み焼き・焼きそばの「道頓堀 赤鬼」の8店舗。旧スナックパーク時代からの人気店のうち、「阪神名物 いか焼き」「うまかラーメン」「元祖ちょぼ焼き本舗」「たまご丸」「御座候」の5店舗が復活した。
大阪・西長堀の中華そばの有名店として知られるカドヤ食堂はスナックパーク用に毎日でも食べられる生麺を開発。「何度もすすってもらえて喉ごしが滑らかで、スープに絡みやすい長めの細麺にした。本店の味をベースにしているが、全く別物。スープもサッと飲める味付けにしている」と、店主の橘和良氏は話す。大阪市内から来た男性客は「本店でも食べたことがあるが、やっぱり関西一のおいしさ」と絶賛。量が少なめなので、「他の店もはしごしたい」と話していた。
天ぷらの山は揚げたて天ぷらを定食で提供する大阪・箕面の人気店。店主の榊潤二氏は「天ぷらと天丼は別物だから、これまでは期間限定でしかやってこなかった。今回は立ち食いの天丼を一から開発した」と話す。500円の「海老天丼」には大きなエビの天ぷらが2本。夜は焼酎も用意しているので、がっつり食べたいときの晩ご飯にもおすすめ。
「夜飲みを狙いたい」と、ワインとワインに合う料理を充実させたのがROMA-KENだ。低価格のスパゲッティが評判の同店は近くの大阪駅前第3ビルにも出店しているが、阪神では「西梅田の女性ワーカーを意識し、バル感覚のメニューを用意した」(同店担当者)。自慢のパスタも400円で提供する。
市場直送の魚を安く味わえるのが「ふじ屋」。「30分で魚をチャージしよう」をキャッチコピーに、時間がなくてもおいしい魚を気軽に食べられる店にしたという。
新生スナックパークは大阪市内に相次ぎオープンしたフードホールとはひと味違う面白さがある。「梅田に来たら必ず阪神に来ていか焼きを2枚食べる」というファンはもちろん、これまで足を運んだことがなかった女性客からも人気を集めることだろう。
シェイクシャック関西1号店にも長蛇の列
今回の改装のもうひとつの目玉が、NY発のハンバーガーレストラン「シェイクシャック」の関西1号店だ。2015年に東京・外苑前に日本1号店を出店して以来、首都圏ではすでに9店舗を展開している。
シェイクシャックのハンバーガーは、成長ホルモン剤を一切使わずに育てたアンガスビーフ100%のパティと、ポテトを練り込み、ほんのり甘みを出したバンズが特徴。基本の「シャックバーガー」のほか、揚げたポートベローマッシュルームをはさんだベジタリアン向けのバーガー「シュルームバーガー」が人気だ。
御堂筋側の通りはこれまで人通りが少なかったが、シェイクシャックの路面店が開業したことにより、明るく開放的な通りに変貌。新たな人の流れも生まれている。
売り場の25%でテストマーケティング
新生阪神梅田本店では、食以外でもさまざまな取り組みに挑戦している。そのひとつが、各階に設けた戦略拠点「テラス」だ。百貨店としては珍しい、自然光を取り入れた明るく開放的な空間をテラスとし、カフェやイベントスペースとして活用。売り場全体の25%にあたる空間でテストマーケティングを行っているのもユニークといえる。
例えば、オープン時には、日常使いを象徴するビニール傘をピックアップしたイベントを開催。手軽に買えて、しかもカスタマイズやリサイクルが可能なビニール傘約200種類をそろえた。7階キッチン用品売り場「ハッピーテーブル」の中央にはライブキッチンを設置。調理の実演をしたり、テーブルを囲んで会話を楽しんだり、従来とは異なる売り方にチャレンジしている。「テラスはフロアの集客拠点であり、2期棟の売り場計画に反映させる狙いがある」(松下氏)という。
百貨店の売り場はこれまで効率重視できたため、自由な発想や斬新さが生まれにくい環境だったが、同店では効率よりも顧客視点を優先。テラスを中心に毎日立ち寄りたくなる楽しい売り場が充実しているといった印象だ。しかも、得意とする食関連売り場を強化し、2021年秋には食の売上比率を50%まで高めるという。
従来型百貨店からの脱却を目指し、強みを鮮明にした阪神梅田本店だが、インバウンドバブルに沸く関西でどう発展していくのか、3年後が楽しみである。
(ライター 橋長初代)
[日経トレンディネット 2018年6月11日付の記事を再構成]
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