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山田和樹 マーラーの次は約200カ国の国歌に挑戦

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指揮者の山田和樹氏(39)が世界の国歌を全曲レコーディングする企画に取り組み始めた。2020年東京五輪を見据えて東京混声合唱団(東混)と200近い国々の国歌や愛唱歌を録音する。15~17年にはマーラーの交響曲第1~9番全曲シリーズ公演を達成した。日本を代表する若手指揮者は相次ぐ大型企画を通じてどこへ向かうか。芸術監督兼音楽監督を務めるモナコのモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団での活動も含め巨匠への道を探った。

6月14日から始まったサッカー第21回ワールドカップ(W杯)ロシア大会。試合前に流れる出場チームの国歌も興味深い。スペインとポルトガルはいずれも大航海時代の栄光をしのばせる勇壮な行進曲風だが、スペイン国歌にはもともと歌詞がない。革命歌だったフランスの「ラ・マルセイエーズ」は、血塗られた軍旗を敵が掲げるなか、「武器を取れ」と呼びかける戦闘的な歌だ。ウルグアイ国歌はモーツァルトやロッシーニのオペラみたいに軽快に鳴る。山田氏は東京混声合唱団を指揮し、こうした様々な国歌をすべて録音する遠大な企画を打ち出した。

東京混声合唱団を指揮し国歌を全曲録音

「東混の音楽監督兼理事長になっていなければやっていないかもしれない企画」と山田氏は語り始めた。「責任もあるし、今後の東混をどう育てていこうかと考えた」。日本の頂点に立つプロ合唱団だが「今までと同じ活動をしているだけでは生き残れない。いろんな可能性を考え、アイデアを書き出した中に国歌があった。東混の団員の中にも同じ構想があったので、やってみようということになった」と経緯を語る。

企画を始めるにあたってまず17年11月に出したのが、東混と日本フィルハーモニー交響楽団を指揮した2枚組CD「山田和樹のアンセム・プロジェクトRoad to 2020」(発売元 キングレコード)。日本国国歌「君が代」のオーケストラ版とオーケストラ伴奏合唱版をはじめ、ドイツや米国などの国歌のほか、エルガーの「威風堂々」(英国)、シベリウスの交響詩「フィンランディア」(フィンランド)、チャイコフスキーの祝典序曲「1812年」(ロシア)など各国の作曲家による愛国的な作品も収めた。ロシア出身でフランスに移住した作曲家グラズノフの「第1次世界大戦の連合国の国歌によるパラフレーズ」という管弦楽曲も収めている。そこには英国やフランス、ロシアなどと並んで日本の「君が代」も連合国の国歌として登場する。

 CDを聴くと、欧州諸国を中心に、行進曲のリズムでトランペットが高らかと鳴るような、気分を高揚させる国歌が多いことが分かる。ベルリオーズ編曲の「ラ・マルセイエーズ」が典型だ。しかし山田氏は「軍楽調で『武器を取れ』みたいな国歌は世界的にはむしろ少ないほうだ」と言う。

日本の五音音階による独創的な「君が代」

世界で最も独創的な国歌として山田氏は日本の「君が代」を挙げる。「あのテンポ感、たゆたう感じを持つ国歌は『君が代』のほかにはない。日本の五音音階でできている。特にリズムを付けず、ゆったりした感じの五音音階の曲はかなり独創的だ」。歌詞の起源は905年(延喜5年)の醍醐天皇の詔により紀貫之らが編さんした「古今和歌集」の読み人しらずの賀歌。国歌の歌詞では世界最古といわれる。

「五音音階の国歌はほかに無いわけではないが、アジア諸国でもわりと西洋的な国歌が多い。自分が日本人だから感じ入ってしまうのかもしれないが、『君が代』は客観的にいっても、世界の人々にかなり独創的に聴こえるのではないか」と山田氏は分析する。演奏についても「日本人だから日本語の歌が簡単なわけではない。むしろ日本人だからこそ『君が代』が最も難しい」。合唱曲で定評のある作曲家、信長貴富氏の編曲によるアカペラ版にも取り組み、世界に向けて「君が代」の素晴らしさを伝えたい考えだ。

山田氏は新たな発見としてコモロ連合の国歌を挙げる。アフリカ大陸の東海岸とマダガスカル島北部に挟まれたインド洋にある島国だ。1975年にフランスから独立し、人口約80万人。首都モロニ。「原始的なパワーがあり、美しいハーモニーも付いていて感動する。単純なメロディーだけど独特なものがある」と山田氏は指摘する。

4月12日、キングレコード関口台スタジオ(東京・文京)を訪ねると、山田氏が東混を指揮してちょうどコモロ連合の国歌を録音するところだった。全員がヘッドホンをかぶり、何度も歌い直しては発音を修正していく。「コモロ語という言語です」と東混コンサートマスターでバリトンの徳永祐一氏は説明する。「辞書を入手できない言語もある。歌っている動画をインターネットで調べ、見て聴いて確かめる。大使館の人にチェックしてもらったりして少しずつ歌えるようになっていく」。珍しい言語を歌いこなすこともこの企画のカギを握る。

それにしても、山田氏が国歌企画に取り組む前に全力を注いだのが、国歌や国家という概念に疎外感を抱いていたユダヤ人作曲家グスタフ・マーラー(1860~1911年)の交響曲シリーズ公演だったのも感慨深い。「オーストリアではボヘミア人、ドイツではオーストリア人、世界ではユダヤ人」と三重のアウトサイダー意識を持っていたマーラー。その境遇は不条理や疎外を扱った作家フランツ・カフカと同じだ。

 マーラーの交響曲は今やベートーベンと並んで日本で最も人気のあるオーケストラの演目だ。民族国家を持たなかった当時のユダヤ人としてのマーラーの人生は日本人とは全く異質だ。彼の音楽にはそうした境遇からくる苦悩や気晴らし、諦念や誇大妄想などが分裂した響きとなってにじみ出る。にもかかわらず日本人がマーラーの音楽に共感する理由は何か。流動するグローバル経済社会の中で、日本人もよりどころの無さを感じる何らかの状況にいるからではなかろうか。

30代で挑んだマーラー交響曲群の絶壁

「山田和樹マーラー・ツィクルス」と題したマーラー全交響曲シリーズ公演は、2015~17年に日本フィルを指揮してオーチャードホール(東京・渋谷)で開かれた。「大変だったが、30代で願ってもない経験をした」と山田氏は振り返る。未完の「第10番」と「大地の歌」を除く交響曲第1~9番全曲を3期に分けて演奏した。各公演とも武満徹氏の作品とセットの演目にするなど、山田氏の独自性も打ち出された。

マーラー公演はいずれも人気で、チケットの購入が困難だった。16年2月の「交響曲第5番」を1枚2000円の「立ち見席券」を当日買って聴いた。演奏前のトークで山田氏は第1楽章「葬送行進曲」をメンデルスゾーンの「結婚行進曲」の短調と解説した。演奏は山田氏の意図を反映したと思われるところもあれば、普通に流した箇所もあるといった印象だ。中核となる高密度で激烈な第2楽章は、曲の形が壊れるくらいに強調すべき楽器のパートを、もっと多声的に響かせてもよかった。

「全公演をライブ録音したが、CD全集にするとは決めていない」と山田氏は言う。すでに出したCDは「第2番『復活』」「第4番」「第6番」の3つ。「交響曲第6番『悲劇的』」(発売元 オクタヴィア・レコード)を聴いた。各パートを緻密に鳴らしているが、金管の響きが軽い。戦闘的な行進曲となる第4楽章では、管弦楽全体で築くべきクライマックスをティンパニやハンマーなど打楽器に依存しすぎているように聴こえる。軍楽調で短調の行進曲による孤立無援の闘いの悲劇性を引き出すのは難しい。

マーラーの交響曲では巨匠の全集がそろっている。マーラーが乗り移ったかのようにその楽譜の極端で異様な指示を最大限に実行したバーンスタインやテンシュテットをはじめ、作曲家の感情を音響にさらけ出す表現主義のアプローチが感動を呼び、高く評価されてきたのは確かだ。山田氏は若い世代として新しい手法を模索したはずだ。「マーラーは借り物競走。自分が持つ具材や調味料だけでは足りない」と話す。しかし過去の名盤を聴くと、マーラーについては指揮者の強烈な自我と個性も必須と思われる。マーラーの絶壁に30代で挑んだ記録として山田氏のCDは貴重だろう。

小澤征爾氏と同様に仏ブザンソン国際指揮者コンクールに優勝して世に出た山田氏。いま重視しているのがモンテカルロ・フィルの芸術監督兼音楽監督の仕事だ。「僕があまりやってこなかったオペラやバレエの公演もするオーケストラ。11月にはオペラを指揮し、年末にはバレエも上演する。新しいことに挑むのはエキサイティングだ」。交響曲と合唱、さらにはオペラやバレエへと、次代を担う指揮者は巨匠への道を歩み続ける。

(映像報道部シニア・エディター 池上輝彦)

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