育休取得率が上昇 キャリアとの両立に知恵絞る
女性活躍推進の追い風を受けて育児休業取得者が増えています。厚生労働省が5月下旬に発表した「雇用均等基本調査」(速報版)によると、女性の育児休業取得率は2017年度83.2%で前年度比1.4ポイント上昇しました。別の統計で女性の育休取得者(育休給付金受給者)を調べると、16年度は31万7千人に上り、06年度13万1千人からここ10年で倍増しました。
出産をきっかけに退社する女性が減り、子育てしながら働ける環境が整ってきた証しです。ただ各職場では育休から復帰した女性にどう活躍してもらうかという課題に直面しています。
昭和シェル石油は6月15日に管理職向けセミナーを開きました。育休から復帰して間もない部下を持つ部長・課長ら41人が参加。「過剰な配慮の見直し」をキーワードに子育て中だからと遠慮しすぎず、適量の仕事をどう割り振るかを議論しました。同社の17年育休者は43人で13年20人から倍増したそうです。久野村務執行役員は「子育て支援策の拡充で退社が減ったのは一つの成果。復帰してきた社員にきちんと貢献してもらうのが次の課題」と説明します。
昨年10月に育児・介護休業法が改正され、保育所に入れなかった場合は最長子どもが2歳になるまで育休を取れるようになりました。米国のように育児休業がない国もあり、先進国の中でも法制度は充実しています。ただキャリア形成を考慮すると長期化は課題もあります。
労働政策研究・研修機構の周燕飛・主任研究員は947人の女性管理職のキャリアを分析しました。育休取得期間と管理職昇格確率の関連を調べると、育休を13カ月以上取ると昇格が遅れると分かりました。長期離脱による能力低下と、長く休むことで仕事にやる気のない人だと見なされる影響だといいます。
キャリアの停滞を防ごうと、育児休業からの早期復職を促す企業も出てきました。ダイキン工業は生後6カ月未満で復帰する社員に限り、保育費用などの補助額を通常の3倍(上限60万円)に増やしています。日本たばこ産業は早く復帰すればするほど特別有給休暇を多く付与しています。育休取得が社員の標準スタイルになるなか、各社は出産とキャリアの両立策に知恵を絞っています。
法政大学の坂爪洋美教授は「人生100年時代の働き方に大切なのは成長し続けること。育児中であっても会社の子育て支援策に甘えず、3カ月後、1年後にどれだけ成長できているかを考えながら仕事に取り組まなくてはいけない。管理職も『子育て中だから』と決めつけずに仕事のチャンスを与えてほしい」と助言します。
坂爪洋美・法政大学教授「過剰な甘やかしは不要」
子育てとキャリアの両立は現場の管理職の役割も重要です。育児中の社員とどう向き合うべきなのか。キャリア問題に詳しい法政大学の坂爪洋美教授に聞きました。
――育児休業から復帰した社員に管理職はどう接すればよいのですか。
「過剰な甘やかしは不要です。子育て環境は一人ひとり違います。『子育て中だから』と個別の事情を考慮せずに、一律に仕事を軽減していては働く側のやる気をそいだり、成長の妨げになったりするなど本人のためにもなりません」
「2000年代半ばから国を挙げて少子化対策に取り組みました。各企業も子育て支援策をこぞって拡充しました。当時は出産を理由に退社されては困るので、会社は社員に子育て支援策を積極的に使うように勧めました。真面目な管理職ほど当時の風潮を今も引きずっていて子育て中の社員に厳しい注文ができません」
――今は育休から復帰しても、しばらくは短時間勤務を続けるケースも目立ちます。フルタイムとは違うのでどんな仕事を割り振ればよいのか、管理職は困っています。
「断られる前提で仕事を振っても構わないと思います。ある外資系企業で聞いたケースです。その会社では育休から復帰した初日に管理職が『海外出張に言ってみるか』と声をかけるようにしているといいます。もちろん無理に行かせる意図は全くありません。目的は以前と同じような働きぶりを会社が期待していると本人に意識付けすることだそうです」
「『子育てで大変だから、どうせ断られるよな』といった決めつけが最悪です。保育所や家族の協力状況、地域の保育サービスの充実度など子育て環境は一人ひとり様々です。復帰間もない社員に『無理です』と断られた仕事でも、別の育児中の社員が『できます』と引き受ける可能性はあります。子育て環境や子どもの健康状態も日々変わりますので、同じ社員でも、かつては断った仕事を今回は引き受けるかもしれません。もちろん無理強いはハラスメントなので絶対にいけませんが、1度か2度、断られたからと引き下がる必要はありません」
「子育て中の女性も、そう頑(かたく)なでもありません。両立の経験がないと、やりとげる自信を持てないので仕事の依頼にも慎重になりますが、『やってみなよ』『できるはずだよ』とやさしく背中を押してあげれば意外と挑戦してくれるものです。実際に仕事を無事こなせたら、その成功体験が自信になって、次の仕事は引き受けやすくなるでしょう」
――だけど子育て中は家庭責任が重くて大変ですよね。本人の努力だけで克服できるのでしょうか。
「社会や会社も変わらなくてはいけません。まずは家庭の男性です。女性が働くためには、誰かが家事・育児をやらなくてはいけません。男性が家事・育児にもっとかかわれば問題は簡単に解決します。ただ、そのためには残業を前提にした雇用環境をまずは見直すべきでしょう」
「会社は子育て中でも成長につながる仕事の与え方を考えるべきでしょう。ある鉄道会社の工夫です。ローテーション勤務をする運転士や車掌が短時間勤務をしたいと思っても、短時間だけ入れるシフトがなく、働きづらい状況があったそうです。そこで会社側が工夫し、短時間勤務の運転士や車掌でも勤められるダイヤをわざわざ新設したそうです。長らく続いてきたやり方を見直してまでも、短時間勤務の運転士や車掌が働ける環境をつくりました。このくらいの覚悟が今後は各企業に求められるでしょう」
(編集委員 石塚由紀夫)
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