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安部映里・日本航空執行役員客室本部長

安部映里・日本航空執行役員客室本部長

管理職として活躍する女性が仕事やプライベート、働き方への思いを自らつづるコラム「女性管理職が語る」。今回は新しい筆者が登場します。日本航空執行役員客室本部長の安部映里氏です。

◇  ◇  ◇

「部下は何人いるの?」。社外の方からよく聞かれる質問です。日本航空には現在、海外を含めて6500人の客室乗務員がいます。中には出産や育児、介護、配偶者の赴任に帯同するための休職や宿泊乗務を行わない制度など、女性が継続的に働きやすくする様々な制度を利用している乗務員もいます。

このような乗務員のサポートや復職支援も重要な仕事で、休職者も私の大切な部下です。客室乗務員という専門職で就職した私には、このような社内最大の組織の責任者として、経営者の一員になる日が来るとは全く想定していませんでした。

私が就職活動をしたころは商社や損保、金融などが男女ともに人気の就職先でした。ただ、いずれも「女性は3年ぐらいでの結婚退職が暗黙のルール。それ以上は居づらいらしい」と言われていました。客室乗務員も人気でしたが、私は華やかさや海外へのあこがれよりも、肩たたきがなく長く勤められそうなことに魅力を感じました。

仕事を始めた頃に大切にしていたのは「準備」です。現在はモバイルデバイスで大量の情報を持ち歩けますが、当時の業務指示は分厚いマニュアルで、全てを持っていくことはできません。

安全、サービス、入国手続きなど業務に直結することだけでなく、お客さまから頻繁に質問される現地の天気、通貨レートやお薦めの店など様々なことを想定して勉強し、自分なりのノートを作っていました。この「準備」は何十回行った場所への乗務でも必ず行う習慣となりました。

経験を重ねるにつれて大切にしたことは「意志をもって判断する」ということです。客室責任者になると、仕事の割り振りから始まり、多数の判断の積み重ねで仕事が進んでいきます。

運航状況もサービスも刻々と変化します。その時の最適な選択肢で判断しますが、忙しさに追われて熟考せずに決めたこともありました。そんな時に失敗すると非常に後悔します。一方、良く考えて自分の意志で判断したことは、失敗しても「自分はまだ力不足だ」と反省はしても後悔することはありません。

乗務員の仕事を通して一番身に付いたのは「覚悟」だと思います。客室乗務員の業務は「人、モノ、時間」が限られた中で行います。飛行機のドアを閉めたら、何がおこっても仲間と最善を尽くして仕事を完了し、着陸しなくてはなりません。

ドアを閉める時、「忘れたことは無いか、本当にドアを閉めて大丈夫か」という思いが頭の中を駆け巡ります。覚悟を決める瞬間です。その瞬間を過ぎると「後は何とかなる、何とでもしよう」と自然と心が落ち着いたものです。

現在の仕事に就いた時、財務3表も稟議(りんぎ)も知らず、他の方が若い時から積み重ねているような経験がない私は、6500人の責任を背負う事に大変な畏れを感じました。今もその気持ちは変わりません。

しかし、今の仕事でもリーダーとして必要なのは、「想定できる限りの準備をする努力をすること」「意志をもって判断すること」「仲間の力を信じ覚悟をもって責任を果たすこと」ではないかと感じています。

あべ・えり
 1981年に日本航空に客室乗務員として入社。2013年に客室安全推進部部長、14年から執行役員客室本部長。

[日経産業新聞2018年6月14日付]

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