日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/6/26
イラスト:三島由美子

例えば睡眠の場合、微細な体動を常時モニターし、その解析から寝ているか起きているかを分単位で推定する。メガネ型デバイスであれば脳波を直接測定することで日中の脳の覚醒度も評価できる。仕事に集中している時、リラックスしている時、疲れている時、酒を飲んでいる時、さまざまなシチュエーションでの生体情報がAIによって統合され、判定され、コーチングに反映される。もちろんスマホのカレンダー機能からその日のスケジュールは筒抜けである。パソコンのキータッチやスマホのゲームアプリのスコアもパフォーマンスを測るデータとして収集される。ゲームに課金していた時の体温や心拍数もストレス指標としてモニターされる。どこでどんな酒を飲んでいるかも位置情報やSuicaの支払いデータからバレバレである。

飲酒後の睡眠状態が悪ければAIから節酒の指示が出ることは間違いない。あるキャバクラで異常に心拍数が上がれば「危険区域」に指定されるかもしれない。お気に入りの女の子から入った営業用SNSメッセージへのレスにも気をつけなくてはならない。精神状態をAIに推定されるからである。これらの生体情報は単発では信頼性が低いが、同一の個人で何度もデータを収集しているうちにその精度はいやが上にも高まる。

過剰なアドバイスが息苦しい?

テクノロジーの進化は凄まじい。AIの能力が人類を超え(いわゆるシンギュラリティ問題)、映画「ターミネーター」が現実になるのではないかと本気で心配している人もいる。しかし、個人的にはもっと卑近で、それが故に現実に起こりそうな不安を感じている。

もしかしたら遠からずユーザー以上にユーザーのことを知り尽くしたAIから冒頭のようなアラートが日夜発信されるのではないかと! 例えば会社でメタボ健診に引っかかったが最後、ウエアラブルデバイスを着けさせられ、スマホからコーチングをしてくるAIの設定は自分勝手に変えられない。指示に従わず自宅と違う方角に向かった段階で監督者(奥さん)のスマホにお知らせメールが入り、同時に懲罰として自宅玄関の電子錠は明朝まで開かないようにロックされてしまう。飲食店やカプセルホテルでのクレジット決済もブロックされるためプチ家出もできないのである。

愛情や心配も度を過ぎると息苦しい。的確なアドバイスをくれつつ、利用者への気遣いも忘れない愛あるAIは登場するのか。私のスマホのSiriに「愛って何?」と尋ねたところ「それにはお答えできません」とすげない返事が返ってきた。

三島和夫
秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事など各種学会の理事や評議員のほか、睡眠障害に関する厚生労働省研究班の主任研究員などを務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2018年4月19日付の記事を再構成]

ナショジオメルマガ
注目記事
ナショジオメルマガ