日経ナショナル ジオグラフィック社

2018/6/26

睡眠判定のできるウエアラブルデバイスの多くもBluetoothやFeliCaなどの無線通信によってスマホやパソコンにデータを送ることができ、これらのデータを解析することで、ユーザーの日々の睡眠状態を客観的に評価できる。睡眠だけではなく、刻々と変わる自律神経(交感神経、副交感神経)、注意力や集中度、体のバランス(平衡機能)などのさまざまな心身機能の日内変動も可視化できる。

ウエアラブルデバイスを使って健康管理をするという試みは10年以上前からあった。私の所には7、8年ほど前にかなりの問い合わせが集中したと記憶しているが、その後やや沈静化していた。というのもこの分野に参入した多くの企業は商業的にあまり大きな成功を収めることができなかったためである。さまざまな理由があるが、「飽きてしまう」ユーザーが多いのが大きな弱点であると個人的には感じている。デバイスの販売ではなく、企業が用意したプラットフォーム(サイト)上で解析と見える化システムを活用してもらうことでその使用料を課金するビジネスモデルの場合には、とりわけ長期ユーザーが少ないことは致命的である。

スマホアプリに表示される自分の睡眠パターンを当初は興味津々で眺めていた人も、1週間もすれば新味がなくなりチェックしなくなる。特に快眠できている人であればなおさらだ。睡眠で困っている人の場合でも、適切なコーチングが戻されなければやはり止めてしまう。現在の技術ではユーザーによって異なる多様な睡眠問題に臨機応変に対応し、満足度の高いコーチングができるアプリを作成するのは大変である。ここら辺の苦労話は本連載の「不眠症に効果アリ? 癒やしの壁に挑む『睡眠アプリ』」でもご紹介した。

実際、ファッショナブルなウエアラブルデバイスで一躍人気となったJawboneですら、2017年7月、経営が思わしくなく破産手続きを開始したと伝えられた。鳴り物入りで登場したApple Watchも当初期待されたほど普及していないようである。そのほか注目されていたウエアラブルデバイス企業の多くが伸び悩んでいた。

IoTを駆使した睡眠指導は実現できそうだが…

ところが、17年あたりから再びこの分野が活性化してきた。その背景にはAIへの期待がある。国や企業がAIやIoTを活用した研究や開発事業に研究費を注ぎ込み始めたためである。国の医学研究費の元締めである日本医療研究開発機構AMEDが公募する研究の要項(どのような研究を求めているかの解説書)を眺めてもあちらこちらにAI、IoTの文言が並び、さしずめ「AI、IoTにあらねば研究にあらず」といった態(てい)である。ビックリするくらい高額な研究費が配分されるのを見て、こじつけでも構わないから申請書に「AI、IoT」と書き込まねばならないという強迫観念に駆られている研究者が少なくない。

確かに、皮膚疾患や内視鏡などの画像解析、診療報酬やゲノムのいわゆるビッグデータ解析など、AIの機械学習や深層学習が得意とする領域では先駆的な研究が行われているが、その他の多くの医学領域では未だAIやIoTをどのように研究に展開すべきか模索している段階にある。そんな中でウエアラブルデバイスは比較的AIやIoTと親和性が高いと目されている。なぜなら、IoTで吸い上げた「個人の」精密な生体ビッグデータを、AIを使って生活環境や医療情報と紐付けて解析することで、従来の技術では難しかった効果的なテーラーメイドコーチングが可能になるかもしれないからだ。

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