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韓国式お好み焼き、チヂミはなぜ雨の日に食べる?

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チヂミは野菜や魚介類などを水で溶いた小麦粉に入れて混ぜ、油を敷いたフライパンなどで平たく焼いたもの。「韓国式お好み焼き」とも呼ばれ、韓国料理屋や焼肉店でもおなじみの料理である。

しかし、「チヂミ」は日本だけの呼び方で、韓国で言っても通じないのをご存じだろうか。また、韓国人は雨が降るとチヂミを食べたくなるとか。今回は、そんな日本人が知らないチヂミの話を紹介しよう。

私は韓流ブームになる前から韓国語を習っていた。というのも、2002年にサッカーワールドカップの日韓共同開催が決まり、日本から韓国に渡航する人が増えると予想されたため、その少し前に韓国旅行ガイド本の出版ラッシュがあったからだ。私はライターとしていくつかのガイドブックにかかわることになっていた。現地での取材は通訳が同行するので、実際は韓国語が話せなくても困らないのだが、少しくらいは話せたほうがいいだろうと考えたのである。

韓国語は文法も単語も日本語と似ているため、ほかの語学と比べるととても学びやすい。あるとき、韓国語の基礎的な構文を使って、先生とこんな会話になった。

先生「韓国料理を食べたことがありますか?」

私 「はい、食べたことがあります」

先生「韓国料理は好きですか?」

私 「はい、私は韓国料理が好きです」

先生「どんな韓国料理が好きですか?」

私 「チヂミが好きです」

先生「え? なんですか、それ?」

えっ、チヂミって韓国料理だと思っていたけど、韓国にはないの? 

驚く私に「それはどんな料理ですか?」と先生は尋ねた。私は辞書を引きながら、ネギやニラなどの野菜と小麦粉が入っていること、フライパンで薄く焼くことなどを説明した。

すると、「ああ! それは韓国では『ジョン』とか『プッチンゲ』と呼びます」と先生が教えてくれた。その料理自体は韓国にも存在するが、名前が違うらしい。

その後取材で韓国に行ったとき、少なくともソウルでは確かにどこのレストランのメニューにも「チヂミ」の文字はなかった。

韓国語では「単語+ジュセヨ」で「〇〇、ください」の意味になる。それを覚えた同行のカメラマンか編集者がレストランで注文する際に「チヂミ、ジュセヨ~!」と言ったこともあったが、やはり通じなかった。

取材に同行した韓国人通訳の話によれば「チヂミ」は慶尚道(韓国の南東部、現在の行政区分では慶尚北道と慶尚南道)あたりの方言ではないかとのことだった。

「ジョン」は漢字で書くと「煎」。「プッチンゲ」とほぼ同義に使われることもあるが、プッチンゲは食材と粉を混ぜて焼いたもの、ジョンは衣をつけて焼いたものという。どちらかというと「ジョン」のほうが高級で、レストランで食べられるのがジョン、屋台で売っているのがプッチンゲというイメージだとか。

ジョンは、素材がネギのものは「パジョン」、そこに海鮮を加えたのが「ヘムルパジョン」、キムチ入りは「キムチジョン」、などいろいろな種類がある。そして、韓国人はジョンと「マッコリ」(米を主原料とした醸造酒。韓国式どぶろくと呼ばれる)の組み合わせが大好きなのだということも教わった。

それにしても、なぜ日本では「チヂミ」という名前が定着してしまったのか。

独立行政法人統計センターが2011年に調査、2012年に発表した「都道府県別 本籍地別外国人登録者」の統計によれば、在日韓国・朝鮮人のうち慶尚北道と慶尚南道を本籍とする人が全体の50%近くを占めていることが分かった。つまり、半分が慶尚道出身である。

日本に渡航してきた慶尚道出身者が韓国料理店や焼肉店を開いたときに方言と知らずに「チヂミ」とメニューに載せた可能性は高い。

由来はどうあれ、韓国に旅行計画がある人は「チヂミという言葉は通じない」と覚えておくとよいだろう。

韓国語のレッスンではこんな会話をしたこともあった。ちょうど今ごろの季節だったかと思う。

先生「日本では雨が降る日に何を食べますか?」

私 「?? えーと、雨が降る日に食べるものは特にありません。日本ではその季節やイベントで食べる料理はあります」

先生「では、雨が降る日にはどんなものを食べたくなりますか?」

私 「うーん…… 雨の日に食べたいものは特にありません。暑い日は冷たいものや酸っぱいものが食べたくなりますが」

先生「そうですか。日本では雨の日に食べたくなるものはないんですか……」

先生があまりに不思議そうな顔をするので、私も逆に質問してみた。

私 「先生は雨が降る日に食べたくなるものがあるんですか?」

先生「はい! 雨が降るとプッチンゲが食べたくなります。韓国では雨が降る日はお母さんがプッチンゲを作ります」

私 「へぇー! それはおもしろいですね。どうして韓国では雨が降る日にプッチンゲを作るんですか?」

先生「分かりません。私が小さいころから雨が降る日にはプッチンゲと決まっていました」

その後も複数の先生に教わったが、レッスンの日に雨が降るたびに「ああ、プッチンゲが食べたい」とか「パジョンが食べたい!」という言葉を聞いたものだ。それぞれの先生に「なぜ食べたくなるんですか?」「なぜ雨が降る日にプッチンゲを作るのですか?」と聞いてみたが、実のところ韓国人もよくわかっていないようである。

「雨が降る日に食べるとおいしく感じるから」とか「わからないけど、小さいころから雨が降る日に食べていたから、今でも食べたくなる」というようなことを言っていた。

気になってネットで調べてみると、韓国では「雨が降る日のプッチンゲ」という言葉があるほど、どこの家庭でもプッチンゲやパジョンを食べるようだ。「雨が降る日に食べるとおいしく感じるから」という意見もネットで散見されたが、何の科学的根拠もない模様。湿度が高いほうが上手にチヂミが焼けるとか、湿度が味覚に何らかの影響をもたらすということはなさそう。

そして、なぜ雨の日にはチヂミなのかというと「雨の音がチヂミをフライパンで焼くときの音に似ているから」とか「雨の日は農作業ができないので、チヂミを焼いてマッコリとともに食べていた習慣が今に残っている」という説が多かった。

しかし、これらの説にはちょっと疑問が残る。雨音のようにパチパチと音がする、油で焼く料理はほかにもあるだろうし、農作業がない日の食事なら別にほかの料理でもいいわけだ。

2015年まで韓国文化紹介機関である駐日韓国大使館 韓国文化院に勤務し、韓国文化に詳しい原田美佳さんによると、「雨が降ると買い物に出かけたくなくて、冷蔵庫など台所にあるものをあれこれ粉に溶いて焼いたプッチンゲを作って食べることが多かったようです」とのこと。

なるほど、これなら大いに納得である。「雨の音に似ているから食べたくなる→雨の日に作る→習慣化する」ではなく、「買い物に行きたくなくて雨の日に作る→習慣化する→食べたくなる」なのだ。

私の韓国語の先生の一人は「パジョン(ネギのチヂミ)が食べたくなる」と言っていたが、ネギならどこの家庭でも冷蔵庫にありそうなもの。だから、先生のお母さんは雨の日にパジョンをよく作ってくれたのだろう。その刷り込みがあって雨の日になると食べたくなる。決して豪華な海鮮入りの「ヘムルパジョン」が食べたい、ではない理由がそこにある。

また、プッチンゲのほうが庶民的な食べ物だから、「雨が降る日のジョン」ではなく「雨が降る日のプッチンゲ」という言葉になったのだろう。それにしても、こんな単純な理由が意外にも韓国人に知られていない(らしい)点に私はちょっと感動する。母たちの深い愛と聡明(そうめい)さを感じるからである。

雨が降る日に子どもが「うちの母ちゃん、また手抜きかよ」ではなく、自然と「プッチンゲが食べたい」と思うようになるには、母たちはとびきりの愛情を注いでおいしいプッチンゲやパジョンを作ったに違いないのだ。

私の日本人の友人の話だが、初めて子どもに幼稚園のお弁当を持たせる日の前の晩、子どもの大好きなおかずばかりを出したそうである。すると、そのお子さんは「お母さん、おいしいね! 明日のお弁当にこれ入れて」と言ったそうな。もちろん最初からそのつもりで、余分に作ってある。母の作戦により、その子の脳内には「弁当とはおいしいおかずが2日続けて食べられるうれしいもの」と完全インプットされた。

その子はもう中学生になるが、友人いわく「その洗脳によって、いまだに私の手抜きに気がついていないみたい」と笑う。「飽きるから、たまには前の晩と違うおかずを入れてよ」とリクエストされたことは一度もないそうだ。

「雨の日にはプッチンゲがおいしくなる」と言っていた先生もきっとお母さんから「雨の日に食べるとよりおいしいね」と小さいころから洗脳(?)されていたんだろう。ちょっと手抜きはしたいけど、おいしく食べてもらいたいという母の気持ちは国は違えども変わらないのだ。

毎年梅雨の季節になると、チヂミを食べたいと言っていた先生たちのことをなつかしく思い出す。そして、私もまたチヂミが食べたくなるのである。もちろん、マッコリと一緒に。

(ライター 柏木珠希)

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