倉庫は大谷石でできていて、利き酒会やコンサートが開かれることも

最初の師匠が辞めた後、天満屋さんが杜氏に就くまでの2年間、別の杜氏が仕切った。前の師匠は新潟県が本拠の越後杜氏、その後仕えた杜氏は岩手県の南部杜氏だった。越後杜氏も南部杜氏も有力な杜氏集団だが、酒造りの手法が違うとされ、実際、味の傾向も違う。新潟の酒が淡麗なのはコメや酵母の種類によるだけではなく、造り方にもよるといわれる。

天満屋さんは越後杜氏の師匠を尊敬していたが、違和感もあったという。例えば、酒を絞った後に余分な雑味などを取り除く工程で、炭素ろ過する際に炭を大量に使うよう教えられた。炭の量が多いと「きれいな酒にはなるが、コメのうま味まで失われるのではないか」と天満屋さんは感じていた。南部杜氏はまったく逆のことを言った。「そんなに炭を入れなくていい」。味わいの深さを重視しきれいすぎない酒を目指す天満屋さんの姿勢は、2人の師匠の下で完成されていった。

温度を自動管理するタンクにはセ氏-2度で生酒が貯蔵されている

「下野杜氏」と呼ばれる、新しい杜氏集団がある。2006年に資格認定の1期生が生まれ、現在は25人が活動している。天満屋さんもその1人。栃木県内で酒造りの技能の伝承と職人の育成を目指してできた。下野杜氏の大半は30代後半から50歳前後まで。

下野杜氏は組織として酒の造り方を統一するとか、酒蔵に杜氏を派遣するといった活動はしていない。それでも、2009年に杜氏となった天満屋さんは「酒造りにまつわる悩みは尽きない。同世代の杜氏同士で情報交換したりヒントを教え合ったりできるのは心強い」と評価する。

虎屋本店はJR宇都宮駅からバスで5分余りの場所にある。栃木県庁と二荒山神社に近く、宇都宮駅との間にはギョーザの名店も点在する。酒を入手するにはホームページでインターネット直販を利用するのが確実。平日の営業時間中は事務所でも買える。一般向けの蔵見学は受け付けていないが、相談には応じてもらえるかもしれない。

酒造組合の事務所に併設された利き酒スペース「酒々楽」には栃木県内の蔵の酒がそろう

虎屋本店から3分ほど歩いたところに、民家のような外見の利き酒スペース「酒々楽(ささら)」がある。栃木県酒造組合の事務所に併設されている。栃木県内33蔵の銘柄が4種類ずつそろう。栃木県は平成29年度全国新酒鑑評会で9銘柄が金賞を受賞するなど勢いに乗っている。

地元でしか流通しない酒もここでは飲める。1杯100円均一なのだが、酒の値段によって異なる容量のグラスを渡される。営業時間は平日午後5~7時と、なんとも優しくない設定なのだけれど、平日の夕方、宇都宮の市街地をさまよう幸運があれば立ち寄ってみてはいかがだろうか。

(アリシス 長田正)

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首都圏を中心とした日本酒の蔵めぐりの楽しさをお伝えする。