食事は手作り、総菜を買えません
著述家、湯山玲子さん
食事は毎日手作りが当然。出来合いの総菜なんて、という家で育ったせいか、どんなに忙しくても一から手作りします。市販品をうまく取り入れればと夫は言いますが、そんなことをしたら罪悪感にさいなまれるのは必至。自縄自縛は分かるけれど、変化できない自分に悩んでいます。(北海道・女性・50代)
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食品添加物問題と向き合わなければならない今、「食事全般をセルフで作り上げる」姿勢は全くもって理想的でご立派。そういうタイプは「ウチの食卓に出来合いのものは登場しませんッ」と、オール手作りを吹聴する困ったちゃんになってしまいそうですが、相談者氏は全く逆で「自分を縛り付ける手作り思想から解放されたい」という。
たとえば、ある夕食をすべて市販の総菜でまかなうことにしたとします。今の総菜の完成度は素晴らしいので、黙っていれば家族にバレないでしょう。そして、ここが重要なのですが、相談者氏が得られるのは何か。それは自分の自由時間です。
寝てもいい、テレビを見てもいい、ジョギングしても株をやってもいい。もちろん仕事をしてもいい。その時間の埋め方の個人的な重要度こそが「総菜を出してしまう罪悪感」を消すことができる。働きながら子育て中の母親なら総菜への罪悪感はゼロ。子育ても介護もない専業主婦なら罪悪感は強そうです。
相談者氏に必要なのは「料理を手抜きしても、やりたいことがある」という、時間を埋める生きがい(わがままといっても良し!)を見つけていくこと。「手抜き時短で生まれた時間を、私は好きなように過ごす」という、限りある人生と時間について覚悟を決めることです。
冷蔵庫の冷凍技術や、ヘルシー保存食情報などは世の中に出回っていて、全て手作りでも時短は可能。相談者氏もたぶんそれを知っているのに実行できないのは「やること依存」かも。自由な時間というものは、現代社会に生きる人間が享受できる重要な価値なのですが、多くの人々はそれと向き合うのを避けるために、やるべきことのハードルを上げ、「余裕がなくて大変だ」状態に自分を置いて、自由時間を持て余してしまいますからね。
「手抜きしますけど、それでできた時間で私は私の好きなことをする」と自分に宣言してみては。その上で、質問に隠されたもっと大きい悩み、「私は自分の人生の時間をどうやったら満足できるのだろう」という本質に向き合ってみて、相談者氏は初めて「変化できない自分」という問題を解決できるのだろうと思います。
[NIKKEIプラス1 2018年6月16日付]
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