最初は、4年生や大学院生の後を付いていき、調査方法を学びます。教授は基本的に放任主義。細かい指示はしないというか、そもそも自分の研究のために1年のうち数カ月間アフリカに行っているので、いちいち学生に指示が出せない。その間は、助手や院生が学部生の面倒を見ます。放任主義の分、自分たちで考えながら研究を進めなければなりませんでした。
フィールドワークは体力も使いますし、それ以上に気を使います。
一般的なフィールドワークはまず、その地域の世話役の方を探し出してあいさつに行き、調査の趣旨を説明した上で、詳しい話を聞かせてくれそうな人を紹介してほしいとお願いします。
スムーズに話を聞けることもありますが、それは珍しいケース。たいていはまず断られます。20歳前後のよそ者がいきなり来て、根掘り葉掘り話を聞かせろとか、昔の書物を見せろとか、写真を撮らせろとか言われたら、まるで自分の家に土足で上がられるような気分になるのも当然です。また、昔のことを知っているのはだいたいお年寄りなので、体調がすぐれず、話をするのを面倒くさがる人も多い。
でも、こちらも簡単に引き下がるわけにはいかないので、時間をかけて粘り強く交渉します。大学や教授は、助け舟は出してくれません。自分たちで現状打破しなければならない。とにかく、どうやったらコミュニティーに受け入れてもらえるか。これがフィールドワークの最初の大きな難関でした。
大学と大学院のあわせて6年間、こういうことを繰り返したら、交渉力やコミュニケーション力がかなり付きました。メンタルもだいぶ鍛えられました。放任主義も悪いことではないなと思いました。
振り返れば、筑波大学はとても自由な大学でした。先生も自由、学生も自由。その自由を生かして、自分のやりたい研究にとことん打ち込む。おそらく都会の大学だったら、誘惑が多くて無理だったと思います。田舎ならではの利点ではないでしょうか。
(ライター 猪瀬聖)