お笑い芸人・はなわさん 隠れて練習見ていた父
著名人が両親から学んだことや思い出などを語る「それでも親子」。今回はお笑い芸人のはなわさんだ。
――お父さんへの思いをつづった新曲を発表しました。
「僕が家を買ったのを機にウェブ広告の曲の依頼があったんです。今の僕と同じように家を建てて家族のために奮闘した親父(おやじ)の姿を思い起こしながらつくりました。タイトルは『拝啓、かっこ悪い親父』にしました」
――お父さんの生きざまが伝わってきますね。
「親父は商社勤めのサラリーマン。寡黙で遊びもせず、文句一つ言わず働き、毎日疲れて寝ている姿をみて、子供心に『面白くないな』と反発していました。でも誠実で筋を通す親父のようになりたいという気持ちは心のどこかにありました。子どもにも声を荒らげて怒ることはなく、背中をみせて諭すのが親父のやり方。僕にとっては息子3人の子育ての指針なんです」
――お笑いの道を志して上京後も見守り続けてくれた。
「東京出張の時にわざわざ僕の風呂なしのアパートに泊まりに来たんです。僕は次の日にライブだったので親父が寝た後に近くの公園で練習していたんですが、寝たふりをしていた親父はこっそり様子をみにきていたらしくて。『真剣にやっているんだな』と認めてくれたようです。直接言われず、母を通じて聞いたんですけどね。本当にうれしかった。やんちゃしてきたけど、心配してくれているんだな、頑張らなきゃと。売れない時期の心の支えでした」
――お母さんの人柄は。
「親父とは全く逆の目立ちたがりでにぎやかな性格。家族の中心です。歌が好きで五輪真弓さんの『恋人よ』を大音量でかけながら夕食をつくるのが日課でした。口うるさいけれど常にプラス思考で、芸人を目指した時も『いいじゃない、やってみれば』と背中を押してくれた。僕がこの仕事をしているのも母譲りなのかなあ。家族の応援があってこそ今があります」
――家族といえば、義父をテーマにした歌も話題に。
「もともと嫁さんの誕生日のお祝いにつくったんです。嫁さんが幼い頃に別れたきりのお父さんに僕から感謝の気持ちを伝える内容。嫁さんに贈る歌って難しくて何度も断念していたんですけど、お世話になっているミュージシャンの寺岡呼人さんに相談してみたら、『お義父さんに手紙を書くようにしてみたら』とアドバイスをくれて。一気に書き上げました」
――奥様の反応は。
「誕生日に歌ったらもう号泣。実はその1週間ほど前に親戚から『義父が末期がんになり、会いたがっている』と連絡があったけれど、悩んだ末に断っていたそうです。意を決して一緒に会いに行きました。同席した僕が一番泣きましたね。義父はその後亡くなりましたが、あのタイミングでこの歌ができなければ再会できなかったと思うと、家族の絆、運命を感じます」
[日本経済新聞夕刊2018年6月12日付]
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