スズキ・クロスビー、デザインだけじゃない人気の秘密
じわじわ成績を伸ばしているコンパクトSUVがある。スズキ「クロスビー」だ。2017年末に大ヒット軽SUV「ハスラー」の拡大版として登場。半年たった今も生産が追い付かず月間販売は3000台レベルにとどまっているが、販売現場では「納車3~4カ月待ち」の人気だという。それも、予想通りのハスラーからの買い替え客だけでなく、意外にも輸入車からの買い替え客が多いとか。日本で珍しく成功しつつある、新世代キャラクターSUVの魅力をチーフエンジニアに尋ねてみた。
失敗を反省しハスラーの名前使わず
小沢コージ(以下、小沢) クロスビー、表向きはまったく新しい小型クロスオーバーワゴンということになっていますけど、かわいい丸目ライトにしろ、マッチョな全体フォルムにしろ、どう見てもハスラーの拡大版ですよね。違いますか?
高橋正志氏(以下、高橋) その通りです。元ハスラー担当のアシスタントと一緒に開発してまして、我々もハスラーの兄貴という形で考えています。ハスラーでやれたこと、やれなかったことをいろいろと盛り込んでいます。
小沢 なぜ「ビッグハスラー」や「デカハスラー」という名前で出さなかったんですか。
高橋 そこにはかつての経験があります。以前、中身はつくり直しなのに「軽をそのまま大きくして出した」と思われてしまった商品があったので、あえて別の名前にしました。
小沢 そうか。かつて出した「ワゴンRプラス」や「ワゴンRワイド」が、中身も軽の延長と思われて失敗した苦い経験があるんですね。
高橋 そうなんです。
小沢 ただし今回、ハスラーという名前にはかなりいいイメージがあるんで、使ったほうがよかったんじゃないかと僕は思ったりもします。ハスラーは今も奇跡的な売れ方をしていて、モデル後半の4年目でも月5000台レベルで販売ベスト10に入っているし、地方に行けば男性はもちろん女性もたくさん乗っている。相当カスタムもされていて、一部では本格四駆の「ジムニー」的にイジられているのもある。アレの拡大版をつくらない手はないと思ったんですよ。
高橋 それはそうだと思います。ハスラーは軽なので4人しか乗れないし、もっと荷物を載せたい、長距離を走りたいというお客様もいらっしゃいます。そこでハスラーを超えたもっと小型車らしいものをつくろうとなったんです。丸目ヘッドランプのモチーフはそのままに、より力強く、大人になったようなフォルムにして、後は質感やパッケージなどは使っていただくユーザーが望むレベルにまで高めたいと。単純にハスラーを大きくした商品とは違うんです。
「ハスラー成功の方程式」を生かす
小沢 より進化したデカハスラーというわけですね。そこで考えてみたいのが、そもそもハスラーの奇跡はなぜ起こったのかということです。デビュー当時の話を僕は今も覚えていますが、意外にもあざといかわいらしさではなかった。今は大学教授となられた当時の担当デザイナー、服部守悦さんがおっしゃっていたのは、いわゆる狙ったレトロデザイン、ポップデザインではなく、伝統を大切にした、本当に自分が欲しくなるようなデザインにしたということ。要は年配男性でも乗りたくなる、ある種の骨太な四輪駆動デザインなんですよ。実際、バンパーやホイールアーチなんかのディテールにしろ結構本格的でジープっぽいじゃないですか。
高橋 その通りだと思います。年配の人たちから見ると懐かしいデザインなのに、若い人から見ると新しいと感じるようなデザイン。そこがポイントだと思います。
小沢 年配にも似合うキュートさ。僕は勝手に「おっさんキュート」と呼んでます(笑)。
高橋 それから居住性や使い勝手が良かったのも、ひとつのキーになるかと思います。ハスラーの室内の広さやユーティリティーはベース車となったセミトールワゴンのワゴンR譲りですので。
小沢 「見てくれがかわいいだけじゃない。実用性はワゴンR並み!」というのはハスラーの強力な武器ですよね。セールストークにもなるし。
高橋 クロスビーの場合、ハスラーにおけるワゴンRに相当するのが、小型ワゴンの「ソリオ」なんです。
スタイリングだけでなく使い勝手も重視
高橋 プラットホームはソリオ譲り。ソリオはものすごく広いですし、走りもいい。その良さがクロスビーにも反映されています。
小沢 そうか! ソリオも使い勝手が良くて、人気ですからね。それをカッコ良くしたのがクロスビーともいえるわけだ。
高橋 その通りです。ハスラーはスタイリングだけじゃなく、使い勝手も高く評価していただいた。よってクロスビーにもその両方を盛り込みたいと思ったんです。小型車は小型車で、単純にスタイリングを良くすれば売れる甘い世界ではないので。というより、小型車のほうがより厳しいと思います。
高橋 軽という限られた枠内では我々もノウハウがありますが、小型車になると競合が増えますし、広告も含めてお客様から厳しい目で見られます。スタイリングだけでなく、走りや質感でもクロスビーならではの特徴を出すようにしました。
小沢 考え方はハスラー譲り。しかし実物はつくり直しだよ、ってわけですね。
もしやミニに対抗できるかもしれない
小沢 ちなみに僕の先輩ジャーナリストで「ハスラーをブランド化すればいい」って唱えてる人がいるんです。実際ハスラーデザインは、日本だけにとどまらず、一部海外でも評価が高い。一度インドネシアに出してみたらものすごい人気だったようで、こっちで売るんですかと聞いたら、「とりあえず反応を見るために持ってきたと。評価が高かったら考える」と。今回、ハスラーに続いてクロスビーも出たことだし、これを全面的に世界展開するのも面白いと思うんですよね。日本が生んだハスラーブラザーズとして。サイズも選べるし。もしやさらに大きいハスラーをつくってもいいかも(笑)。
高橋 ありがとうございます。
小沢 もしや日本が生んだBMWミニ的な存在にもなり得るんじゃないかと。実際、日本でもミニ代わりに買う人もいるって話で、同じくキュートだし、それでいて価格は半分という。
高橋 なるほど。
小沢 ところでコンパクトSUVとして考えるとクロスビーの全長3.8m台は相当短いですよね。ライバルと比べるとダントツですが、一体どういう判断なんでしょうか。
高橋 さきほどソリオの話が出ましたが、あの大きさだと女性も含めて、軽からのステップアップユーザーでも運転しやすいんです。軽から乗り換えたばかりの方でも違和感なく乗れる。ソリオはそこを高く評価していただいているので、クロスビーもそうしようと。
実際、去年の東京モーターショーでも、「このサイズがやっと出た」というお客様の声がありました。今、どの小型車も少しずつ大きくなっていますし、逆に抑えてみようと。他にないキャラクター性も持っていますし。
小沢 英断だと思います。そう考えるとつくづくスズキにしかつくれないコンパクトSUVですよね。デザインといい、コンセプトといい、サイズ感といい。
高橋 ありがとうございます!
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
(編集協力 山田真弓)
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