2018/6/15

記事

遺族らから寄せられる最も多いトラブルは「パスワードが分からない」だ。パソコンやスマホは使用する本人以外はパスワードやIDを知らないケースが多い。万が一に備えて連絡先や資産状況などのリストを作って保存しておいても、配偶者や家族らがパスワードやIDを知らなければ自力で入手するのは難しい。中小企業の経営者や個人事業主の場合だと、必要な書類を取り出したり、死亡を伝えるべき相手に連絡できなかったりすれば、その後の事業に影響するかもしれない。日本PCサービスやデジタルデータソリューションのような専門の会社に連絡すればパスワードを解除してくれる。ただし、対応や料金は業者によって異なる。パソコンは解除できてもスマホは難しいのが現状だという。スマホではデータのバックアップがカギとなる。

ハードディスクを取り外して中にあるデータを取り出す場合もある

仮想通貨の相談も増加傾向

オンラインデータに関しても、IDやパスワードが分からないと面倒だ。「遺族が連絡すれば契約を終了できるが、身分証明の手間が煩雑。また、第三者への譲渡や貸与、相続を認めない『一身専属』を利用規約にうたっていると、家族であっても引き継げない」と古田氏は指摘する。中にはそもそもそんなデータがあることを知らなかったり、知っていてもよく分からないので後回しにしてしまったりすることもある。ブログなどは本人の死後も放置していると悪用される可能性もあるという。

ネット系の銀行・証券は会社に連絡すれば、パスワードなどが分からなくても対応してくれる。重要なのは早めに連絡すること。外国為替証拠金(FX)取引のように元手の何倍もの投資ができる商品で投資している人が手じまいせずに亡くなると、家族が気付かないうちに損失が膨らんでいたということにもなりかねない。仮想通貨(ビットコイン)も注意が必要。前述のシンポの相談事例にも「亡くなった夫が仮想通貨をやっていたらしいので調べてほしい」という依頼があった。時価が上がれば相続税がかかる場合がある。「仮想通貨の相談事例は増えている」(デジタルデータソリューションの熊谷社長)といい、取引が広がればシニア層のトラブルも出てきそうだ。

伝えたり書いたり、対応はアナログ

「デジタル終活」も実際の手続きはアナログな手法が主体になる。まずはどんなものがあるか、そしてそれぞれのIDやパスワードを伝えたり、書き残したりすることだ。最近のエンディングノートはこれらを書き込む欄が設けられているものが多い。どう対応してほしいのかも記しておくとよいだろう。IDとパスワードをそろって書くのはセキュリティー上の危険もあるので、パスワードはヒントにとどめるなどワンクッション置くのが有効との指摘もある。書き残したものを貸金庫に保管するのもいいだろう。ただし、そのことを家族に伝えたり、内容に変化があった場合は適宜書き直したりすることも忘れずに。

エンディングノートではデジタル機器の情報やネット銀行のパスワードなどを書き込めるものも増えている

パソコンやスマホには多くの情報が入っている。「終活弁護士」として知られる伊勢田篤史氏は「どんな遺品があるのか棚卸ししたうえで、残すものとそうでないものに分け、それぞれについて対応策を記録しておく」と話す。家族に見られたくないものもあるかもしれない。必要なければ消しておく。フォルダーの階層化で奥深くにしまっておくのも一案だ。「見るな」などと書いてあると、逆に見たくなる。その場合はUSBメモリーなど別の媒体に入れて家族に渡るようにしておくのも手だが……。そもそも死後の手続きや作業は配偶者や家族に託すもの。「指示に従ってくれるような信頼関係を築いておくことが重要」(伊勢田弁護士)といえそうだ。

日本経済新聞が17年夏に実施した終活の取り組みについての読者(60歳以上)アンケートでは、自由回答欄にデジタル遺品に関する書き込みが目立った。「インターネットによる取引がたくさんあるので、パスワード等を一括管理している」「パスワード付きでエクセルに資産状況などを記載。何かあったときに開けてくれと妻に言ってある」と対策をとり始めている人もいれば、「写真やブログなどの整理の仕方を知りたい」「IDやパスワードの扱いやパソコンの中にある見られたくない情報をどうするか検討中」などこれから実施する人の声もあった。多かったのは後者だ。伊勢田弁護士は講演の場などで冒頭に「あなたはパソコン・スマホを残して死ねますか?」と問いかける。「死ねない」と答える人は増えているという。デジタル終活は後に残る人のことを考えて早めに手を打つのが肝要だ。

(マネー報道部 土井誠司)