週末レシピ 「牛丼、失敗しないので」肉はケチらずに
週末レシピ、今回はどんぶり選手権があったら優勝すること間違いなしと思われる、国民的どんぶり、牛丼である。早い、安い、うまい、のあのチェーン店から、高級和牛が売りの店がうやうやしく供するとてつもないお値段のものまで、世の中には多くの牛丼が存在する。ピンもキリも食べてみた私だが、「世の中にまずい牛丼などない」ということが分かった。どんな牛肉を使おうと、どんな煮方をしようと、牛丼はうまい。なので、最初から勝負は決まっているのだ。安心して作ってほしい。
【牛丼 材料(1人前)】
牛肉 150グラム / タマネギ 2分の1個 / しょうゆ 大さじ3 / みりん 大さじ3 / だし 300ミリリットル / ご飯 好きなだけ / 好みで七味、紅ショウガなど
【手順】
(1)タマネギをスライスする
(2)だし、みりんでタマネギを煮る
(3)牛肉を入れ、火が通ったらしょうゆを入れる
まず肉の量だが、これは「けっこうかなりたっぷりめ」の量だ。「肉欲の強い人」は、もっと多くてもいい。だって「今から牛丼を食べます」というとき、肉の量ごときでケチケチしたくないのだもの。牛丼とは、牛肉を食べる料理である。ほかはともかく、肉だけは自分の思うように用意しよう。
タマネギの有無は、評価が分かれるところだが今回は採用した。一般的にチェーン店の牛丼には、タマネギを使用していることが多い。入手しやすい、値段の変動も少ないというメリットもあるが、何より「自然な甘みが出ること」が理由だろう。お店よろしくクタクタになるまで煮てもいいし、シャキッと歯ごたえが残る程度の熱の入れ具合にしてもいい。自分で作るのだから、好きにすれば良い。
また「だし+しょうゆ+みりん」ではなく、めんつゆを使うともっと楽だ。その場合は、温かいそばつゆ程度の濃さを目安にすると良い。関西の人ならば、ちょっと濃いめのうどんつゆだろうか。あとでご飯に乗せることを鑑みて、ちょっと濃いめ。しかし、せっかくの肉の味を壊すほど濃いのは勘弁してほしい。その辺は、自分の舌を信じて味見あるのみ!である。
鍋にはまずタマネギのスライス、だし、みりんを入れ、火を付ける。めんつゆの場合は、最初から全部入れてしまおう。そして好みの軟らかさになるまで、タマネギに火を通す。みりんのアルコールを飛ばすため、一度しっかり沸騰させること。
タマネギが自分好みの軟らかさになったら、牛肉をタマネギの上に広げていく。
半分くらい色が変わるまで待った後、しょうゆを加える。しょうゆの風味は飛びやすいので、後から加える。これは覚えておくといいテクニックである。牛肉はすぐ火が通るので、赤さがほぼなくなったらもう出来上がりだ。
ご飯はできるだけ炊きたてを用意したい。熱々ご飯に牛丼の具を乗せて、七味、紅ショウガなど、お好みのものを添える。私は「卵黄のっけ」からの、「卵黄決壊」。そして山椒(サンショウ)が香るタイプの七味をたっぷりかけるのが好きだ。一度お試しあれ。
このレシピだと、相当強火でガンガン煮ない限り、かなりのつゆだくになるはずだ。もちろんつゆだく牛丼が好きな方なら、牛丼ですべて使ってしまうかもしれないが、ここはあえてつゆを残して欲しいのだ。牛丼の副産物である「牛肉のうま味たっぷりしょうゆつゆ」は、実に使い勝手のいい調味料となるからだ。その使い方の例を挙げていこう。
その1、卵を落とす。
そもそも牛丼とは、明治時代に大流行した「牛鍋」をご飯にかけたものが始まりだと言われている。牛鍋は当初は味噌味だったそうだが、肉食になじみのなかった日本人が、牛肉の扱いが上手になるにつれ、味噌味から甘じょっぱいしょうゆ味へと変わっていったと伝えられている。それがのちの関東スタイルのすき焼きとなるわけだ。
最近、20~30歳代の人たちに「家ですき焼きをするか」という質問をしたことがある。昭和世代であれば、それがたとえ年に1度のことであっても「やったやった、すき焼きを家族でやったよ」とうれしそうな顔で語ることが多いだろう。しかし、今時はちょっと違うらしい。軒並み返事は「家ですき焼きはやらない」だったし、中には「すき焼き自体それほど食べたいと思わない」という切ない意見もあった。
これは「しょうゆと砂糖、みりんで甘辛く味つけされた肉が嫌い」という話ではない。むしろみんな好きだ。相変わらず好きだ。ただ、家ですき焼きをやるというシチュエーションが激減した、という話なのだ。同じ甘辛牛肉を食べるのに、すき焼きという手段を取らないという話なのだ。世帯の構成人数が減り、食事の時間がまちまちであると、すき焼きのような料理は候補に上がらなくなってしまうのだ。
しかし、そうなると残念なのが、「すき焼きの翌日のお楽しみ」を味わえないことである。すき焼きをするとなると、なぜか具材を多めに買ってきてしまう。最初のうちはうまいうまいとパクパク食べるものの、ずっと同じ甘辛味ではそのうち飽きがくる。とりあえず鍋に入れた分が、まるまる残ったりする。したがってすき焼きとは必ず、翌日まで残るものなのだ(ウチはそうだった)。
我が家ではそれに卵を落として、朝ごはんやお弁当にするのが常であった。単なる生しょうゆで食べる卵もうまいが、肉のうまみがギュッと凝縮された甘辛たれで火を通した卵は本当においしかった。少し残った肉のかけらが白身に絡め取られ、単なる目玉焼きとは違う風情を持っていた。あれを再現するのが、このつゆだく牛丼の残りである「牛肉のうま味たっぷりしょうゆつゆ」なのだ。見た目は悪いが、味は抜群。そう、翌朝のすき焼きの尊さを知っている人なら、分かるでしょ。
その2、野菜を煮る。
俗に「男子が作って欲しい料理ナンバーワン」と言われて久しいのが、肉じゃがである。その真偽は定かではないが、肉じゃがが広く愛されているのは間違いない。しかし料理が苦手という人には、どうやって味付けしたらおいしくなるのか分からない料理ナンバーワンでもあるのだ。
おいしい肉じゃがの作り方はあえて省略するが、ともかく「牛肉のうま味たっぷりしょうゆつゆ」さえあれば、肉がなくても肉じゃがが作れてしまうのである。私など「どうせ後からジャガイモを煮たくなるんだから」が、つゆだく牛丼を作るモチベーションになったりする。それほど一石二鳥のおいしい後始末なのである。これはぜひお試しいただきたい。
そうそう。ジャガイモだけでなく、ダイコンやサトイモを煮るのもおいしい。豆腐を煮てもいいし、野菜いための底味に使ってもいい。用途は限りなくある。しかし、そうなるとますます「つゆだく」の需要がマシマシ(増し増し)になり、そのうちどちらがメインなのか分からなくなってしまいそうだ。牛丼はつゆだく。それはチェーン店だけの合言葉ではない。
(食ライター じろまるいずみ)
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