観客が「劇場で絶叫」で大ヒット 映画『バーフバリ』
「バーフバリ ジャイホー(万歳)!」。劇場で観客が突然こう叫び出す。その声に他の観客も呼応し、大合唱に。こんな驚きの出来事が全国の劇場で起こっている。その熱狂の発生源は、インド映画『バーフバリ』だ。
SNSで拡散、ロングラン上映
1作目の『バーフバリ 伝説誕生』が日本で封切られたのは2017年4月。8館での上映にすぎない「無名映画」だった。しかしその後、後編『バーフバリ 王の凱旋』が12月に公開されると、叫んで応援できる「絶叫上映」の様子がSNS(交流サイト)で拡散。公開館も増え、国内興行収入は1億5000万円を突破。ロングランを続ける。
バーフバリ2部作は、古代インドの架空の国を舞台に、2代にわたる王の座を巡る闘争を追う歴史大作だ。インド映画史上最高額の巨費を投じたスケール感に加えて、親子愛や兄弟の確執、嫁姑問題などが絡み合う家族ドラマでもあり、恋愛ドラマでもある。
「圧倒的な力の世界の『北斗の拳』と、神話的壮大さを持つ『聖闘士星矢』に加え、どろどろした『昼ドラ』の要素を備えた全部盛り」(塚口サンサン劇場の戸村文彦氏)だ。しかも、全編にわたり常時クライマックス状態が続き、興奮が止まらない。
主人公の強さも人気の要因。社会が複雑化するなか、ハリウッドでは完全無欠のヒーローは絶滅寸前で、葛藤をあえて見せることが定石に。一方、バーフバリは卓越した知力と体力を備え、迷いがない。今や稀有な「真のヒーロー」に人々は心を奪われた。
加えて、「女性が気高く強いことも、現代人の共感を呼んでいる」と、映画評論家の江戸木純氏は分析。例えば、バーフバリの妻となる小国の姫デーヴァセーナが、大国の横柄な要求を一蹴するシーンは爽快だ。
前代未聞の娯楽大作が誕生した背景には、インドの映画製作の変化がある。従来、中心地といえば「ボリウッド」と呼ばれる北部のヒンディー語圏だった。だが、最近では南インドも台頭。「近代化した北部は洗練された作品が増えている一方、南部はパワフルで、『映画=娯楽』という昔ながらの気風が残る」(アジア映画研究者の松岡環氏)。古風だが新しい風が怒涛のエンタメを生んだ。
クチコミを誘発する上映手法も起爆剤になった。後編公開時には「絶叫上映」を連続実施。絶叫に加えて紙吹雪などを投げて応援できるインド映画でなじみの「マサラ上映」も話題に。配信が始まり、劇場に行かずに見られるが、「大勢で見ることでより盛り上がる一体感がクセになる」(参加型上映を企画するV8Japan)というように、劇場ならではの醍醐味を求めてリピーターが続出した。6月1日からは、26分の映像を加えた『王の凱旋〈完全版〉』が公開。バーフバリ旋風はまだ吹き荒れそうだ。
[日経トレンディ2018年7月号の記事を再構成]
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