
福田さんは、それまでみんなのやった面白いところを全部覚えていました。福田さんが「これを足してください」と言うこともあるのですが、基本的には、俳優が自分で考えた笑いをためておいて、最後に福田さんが整理して舞台に出すというやり方です。そういう演出は初めてだったので、僕は驚きました。
アドリブも完全に自由。愛原実花さんのグラスに僕がシャンパンを注いで、それを一気に飲みほす場面があって、偶然ゲップが出ました。「それすごく面白いね」って福田さんが言ったので、僕も悪のりして、次からはグラスになみなみと注ぎました。実際の中身は炭酸飲料です。愛原さんには人前で絶対にゲップをしたくないという信念があって、涙目になりながらこらえていたのですが、我慢できなくてとうとうしたら、「今、ゲップが出たよね」と僕が突っ込むといったやりとりをしました。
吉岡里帆さんは舞台経験があまりなかったので、頭の中が真っ白になってしまう瞬間がありました。そうしたら舞台上で、「ん? もう1回ちょっと前からやってみよう」と僕が言って、芝居をやり直します。普通の舞台だったら考えられないことですが、「笑いに変えてくれるなら、何でもいいですよ」というのが福田さん流です。
そう考えると、みんなでご飯を食べに行くのも、笑いに生かせるからじゃないかとも思えます。一緒に飲み食いすると、お互いのことがよくわかります。そのほうが絶対にアドリブがやりやすい。
最初のうちは「この人には、ここまで言って大丈夫かな? 怒らないかな? どこまで言ったら、失礼になるのだろう?」という限度が分かりません。だから、どこまでが境界線なのを俳優同士が早く共有して、みんながいいムードのなかで演じたほうが、いろんな笑いが生まれやすいんです。福田さんはその場をつくるのがとても上手だし、その努力を惜しまずに尽くしてくれます。
福田さんは、笑いへの愛情が深くて、俳優を面白く見せようという愛情にあふれている方。俳優からしたら、最後は福田さんがうまく取捨選択して絶対に面白くしてくれるという信頼があるので、思いきって自由に演じることができるのです。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第24回は6月16日(土)の予定です。