ヨガが上達したら周囲に妬まれています
作家、石田衣良さん
ヨガを9年間続け、インストラクターにならないかと誘われるほど上達しました。しかし体が硬く太ったおばさま連中に妬まれ、ナルシストと噂されて困っています。(東京都・男性・30代)
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インストラクターにならないかと先生に誘われるくらい上達したんですか、それはおめでとう。9年の経験があるということは、最近のブームよりもはるか昔から、ヨガの価値に気づいて気長にとり組んできた。上達は立派な成果で、それ自体はまったく問題ありません。
でもね、世の中の噂には、それなりの理由があるものです。あなたはおしゃれなヨガ用ウエアを着こなし、並はずれた柔軟性がなければできない高度なポーズを、これみよがしにヨガ教室で見せつけたりしていませんか。さらに完成度を求めるあまり、鏡に映る自分の姿を熱心にチェックしたりして。ああこの角度が我ながら美しいなんて。
あなたのメールにある「体が硬く太った」人たちに、そういう姿が嫌みに見えるのは仕方ないことなのです。言葉は恐ろしいですね。何気なく書いたのに本心が表れてしまう。下手なくせに、懸命に練習しようともしない「連中」をあなたは心の底で軽蔑しているのです。
ヨガ教室はあなたのように真剣にヨガの道を究めようという熱心な生徒だけではないですよね。流行だから、あるいは友達に誘われて無理やりなんて生徒も多いはず。そういう人を先生はどう扱っているでしょうか。才能がない、やる気が見られないといって、かんたんに首を切ることはないはずです。
だとしたら、あなたも優雅なマインドフルネスをフルに発揮して、おばさま連中を優しく指導してみたらいかが。その場合、自愛を笑って受けいれ、ナルシストの王子キャラをつくれたら文句なしです。
それができたら、あなたは人間として一段成長するでしょうし、今後の人生にもプラスに働くこと間違いなしです。今ではどの職場でも女性の進出は目覚ましく、中高年のベテラン女子が陰の権力を握っているということが珍しくありません。
ヨガ教室でインストラクター並みの技術をもった無敵の王子キャラをつくれたら、その技はどんな会社でも生きるはず。次回教室に行くときは、ぜひかわいい花を買い、ローカロリーのドライフルーツやナッツを差し入れに持っていきましょう。
多くの女性はナルシストが嫌いなのではありません。自分だけは違うと周囲を軽蔑する気位の高いナルシストが嫌いなのです。あなたは愛されるナルシストを目指してください。
[NIKKEIプラス1 2018年6月2日付]
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