最初はオマケだったMONO消しゴム、半世紀の道のり
納富廉邦のステーショナリー進化形
青、白、黒という3色の配色で知られる「MONO消しゴム」。発売するトンボ鉛筆によると、現在、消しゴム全体の消費量は落ちているにもかかわらず、MONO消しゴムは売り上げを伸ばしているという。
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MONO消しゴムが発売されたのは今から約50年前の1969年。今では消しゴムといえば青白黒のスリーブ(ケース)に包まれた四角いMONO消しゴムが思い浮かぶ人も多いのではないか。
ただ文具店を見ると、さまざまな形のMONO消しゴムがあることに気づく。
MONO消しゴムが大きな変化を迎えたのが2002年のことだった。この年、トンボ鉛筆はMONOブランドを見直し、「知的活動を完璧にサポートするデスクの右腕」と定義したのだ。「こう定義したことで、消しゴムと鉛筆だけでなく、シャープペンシルや修正テープなどにも、MONOブランドは広がっていきました」(MONO消しゴムの開発に携わるトンボ鉛筆プロダクトプランニング部の吉田奈々氏)
消しゴムも多様化していった。MONO消しゴムというと直方体の消しゴムを思い浮かべるかもしれないが、胸にさせるスティックタイプだったり、塾に持っていきやすい軽いタイプだったり、さまざまな製品が生まれているのだ。「サイズやカラーバリエーションを含めると40種になります」(トンボ鉛筆広報部)
背景には少子化の問題もあるという。消しゴムを利用するのは鉛筆を使う学生が中心。子どもが少なくなると消しゴムのマーケットも小さくなる。そこで、ターゲットを社会人まで広げ、さらに一人に複数の消しゴムを持ってもらおうと考えたのだ。
次々に生まれる多様なMONO消し
いまだに最も売れているMONO消しゴムは、従来の直方体のタイプだそうだが、現在、MONOブランドは消しゴムだけでもかなりのラインアップを持つ。
筆記具のような形状をしたホルダータイプのノック式細字消し「MONO zero(モノゼロ)」は手帳に挟んでも突起しない形状、精密なノックなどの機能と品質で大ヒットとなった。2.3mmの丸型と2.5mm×5mmの角型があり、細部だけをピンポイントで消すことができる。軸が金属になったメタルタイプは、そのデザインのカッコ良さも魅力だ。
消しゴムの世界では、一時期、コクヨの「カドケシ」や他メーカーのホルダータイプなど、「細かい部分を正確に消せる」タイプの消しゴムが話題になった。この分野に関しては出遅れていたMONOだが、このモノゼロで一気に遅れを挽回する。
細部を消すタイプとしては、薄さ5.5mmの直方体「MONO smart(モノスマート)」もある。一般的なノートのケイ線幅より狭いので、「ノートに書かれた文字を1行だけ消す」といった用途に向いている。一方、ホルダータイプでは、2018年に細部消しではなく普通の消しゴムとして使える「MONO stick(モノスティック)」が登場した。
「MONO消しゴム 文字なしタイプ」は文字、数字、記号を一切印刷していない消しゴム。センター試験などでは所持品や服などに文章や英文字等がプリントされたものが制限されるため、その心配を解消した製品だ。実はMONO消しゴムの青白黒という配色、17年3月に「色彩のみからなる商標」として登録されている。ロゴがなくても青白黒の3色でMONO消しゴムだとわかるデザインの強みが、この文字なしタイプにはわかりやすく生かされている。
本体が黒いので、文字を消しても消しゴムについた汚れが目立たず、消しクズが見やすい「MONO消しゴム[ブラック]」、紙面との摩擦を低減し軽い力で字を消せるようにした「MONO AIR touch(モノエアタッチ)」、消しクズが本体についてまとまる「MONO dust CATCH(モノダストキャッチ)」も登場。まさに用途に合わせて一人が複数持ちたくなるような、さまざまなMONO消しゴムが存在しているのだ。
最初はオマケだった
今では消しゴムの代名詞とも言えるMONO消しゴムだが、最初に登場したときは「オマケ」だった。1967年、「MONO100」という鉛筆の1ダースセットにつくオマケとして登場したのだ。
MONO100は、三菱鉛筆の「ハイユニ」に対抗し、鉛筆の高級品を目指して発売された。当時は鉛筆が筆記具の中心だった時代。各メーカーは品質の高さを競っていた。ちなみにMONOというブランド名も、ギリシャ語の「唯一の」「単一の」に由来する。「MONOは鉛筆からスタートしましたが、品質の高さをアピールするための名前でした」(吉田奈々氏)
「トンボ鉛筆としては、よい鉛筆の特質である『なめらかにくっきり書けること』と同時に、『きれいに消えること』もアピールしたいと考えた」と解説するのは、トンボ鉛筆広報の川崎雅生氏。「そこで鉛筆のオマケによく消える消しゴムをつけて『書く』『消せる』両面で品質を伝えようと考えました」
このオマケの消しゴムはプラケースに入っていて、半分が「砂消しゴム」になっているタイプだった(砂消しはインクで書かれた部分を削り取ることで文字を消す消しゴムのこと)。この消しゴムが「よく消える」と評判になり、その2年後、オマケではなく消しゴム単体で発売されることになる。
MONO消しゴムが登場した当時は生ゴムを使った消しゴムが主流。プラスチック消しゴムはまだ珍しかったが、消字性能の高さで利用者層を広げていく。MONO消しゴムが大ヒット商品となったのは、製法が確立され安定した供給ができるようになった1973年から1975年あたりだったという。
青白黒は国旗をイメージ
MONO消しゴムというと、印象的なのが青白黒の3色スリーブ(ケース)。MONO消しゴムは69年に発売された当初からこのスリーブでくるまれていた。
このデザインを考えたのは、当時、同社の社員デザイナーだった井出尚氏。小さな消しゴムでも存在感を出したいと考えた井出氏は万国旗に描かれた三色旗をモチーフにこのデザインを描いたという。東京五輪の直後で大阪万博直前という時代も影響したのだろう。男女双方が使える配色として、青白黒の3色が選ばれたそうだ。
青白黒の組み合わせは変わらないが、MONO消しゴムは現在までに数回、デザインが変更になっている。
初代のデザインは白の部分が極端に細い。中に書かれている文字は、上部の青に「MONO」、中央の白に「Tombow PENCIL'S」、下の黒に「PLASTIC ERASER」と書かれていた。80年ごろに青白黒の割合が同じになり、中に書かれている文字も、青に「PLASTIC ERASER」、白に「MONO」、黒にトンボ鉛筆のロゴマークと「Tombow」の文字に変更される。
その後、「O」の文字が鉛筆の断面風に六角形になっていた「MONO」の書体を、通常のゴシック体に変更。2013年、トンボ鉛筆のロゴマークの変更に準じて、ロゴマークが下向きのトンボから上向きのトンボに変更された。また細かな部分では、2005年以降、スリーブの上側の角にU字型の切れ込み(Uカット)を入れて、強い力で消している時にゴム部分がスリーブに食い込むのを防ぐ工夫が施されている。
基本となる色の組み合わせは変えずに、ロゴなどの書体などを変化させることで時代に合わせたデザインにしている点も、MONO消しゴムが長く使われている理由の一つだろう。
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