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相手の怒りを回避する魔法のフレーズ

以上を前提として、謝罪の鉄則を3つ挙げてみよう。

第1は当然ながら、「相手に非があると受け取られるような事情説明をしてはいけない」ということだ。仕事上のトラブルの多くは、勘違いや行き違い、意思疎通の不足が原因だ。どちらかが一方的に悪いということばかりではない。しかしそれをストレートに指摘すると、言い訳や責任逃れのように聞こえてしまい、かえって相手を怒らせることになりかねない。

それを回避する使い勝手のいい言葉がある。「確認不足」だ。相手の勘違いがトラブルの原因だとしても、「こちらの確認不足でした」「もう一度確認すべきでした」と自分に非があるように言えば角は立たない。

また「確認」はお互いの意思疎通によるものなので、その「不足」はお互いの責任ということにもなる。「確認不足でした」と言われれば、常識ある社会人なら「自分もちゃんと伝えていなかったかな」と気づくはずだ。

上司はすべてを解決しようとは考えない

第2の教訓は、「当事者以外が対応する場合も注意が必要」ということだ。上司が前面に出て謝罪する、または謝罪されることはよくある。当事者同士では感情が先に立って素直に頭を下げにくい場合もあるし、逆に萎縮しすぎて理不尽な要求をのまされたりする場合もある。そんな時に上司が表に出れば、そういう「延焼」は防げるし、「それだけ重大事と捉えている」という相手へのメッセージにもなる。部下のトラブル処理は、むしろ上司として当然の役割と言えるだろう。

ただし、上司同士なら丸く収まるというわけでもない。互いに部下や組織をかばいたいという意識も働くからだ。さながらひな鳥や巣を守ろうとする親鳥のようなもので、感情的になる場合もある。

こういう時は、その場ですべて解決しようと思わず、頭を下げつつ「詳細を精査したうえで、社としての対応を後日改めてご報告します」と、いったん退く方がいいだろう。その間に事実関係の洗い出しもできるし、冷却期間にもなる。これこそ当事者ではなく、上司だからこそできる収め方だ。

そして第3の教訓は、「メールを活用する」だ。口頭で説明しようとすると、どうしても言葉足らずになったり口が滑ったりしがちになる。日常のコミュニケーションなら多少は大目に見てもらえるが、謝罪となると、さすがに言葉選びから神経を使う必要がある。

だからメールが適しているのだ。できるだけ早く口頭で謝り、できるだけ詳細にメールで事情を説明して善後策を申し出るという2段階を踏めば、さすがに相手の怒りも静まるのではないだろうか。

しかもメールなら、記録として残る。後で蒸し返されて「言った」「言わない」という水掛け論になることも避けられるし、身内で再発を防ぐための教材にもなる。

事実をねじ曲げてもたいていバレる

ちなみにこの時、自分に不利な事実を隠蔽したりねじ曲げたりしても、大抵バレるものだ。それによって、傷口を修復不能なほど広げてしまった事例は、やはり昨今の新聞や週刊誌を広げればいくらでも拾えるだろう。私たちは、そういう時代に生きているということを自覚した方がいい。

余談だが、口頭で謝罪する際には気の利いた「菓子折り」も忘れずに持参したい。人は現物をもらうと、つい怒りの矛先を鈍らせてしまうものだ。隠蔽より「懐柔」の方が、よほど気の利いた謝罪と言えるだろう。

「トラブルを丸く収める」3つの鉄則

1 最初の謝罪は「確認不足」で乗り切る
ただ謝るだけではなく、原因や経緯の説明は不可欠だ。しかし、相手にも非があるような言い方をしてはいけない。「こちらの確認不足」と言えば、とりあえず意思疎通の問題に転嫁できる。

2 上司が前面に出て時間を稼ぐ
部下の不始末を上司が謝れば、誠意を示すことになる。しかしここでの上司の役割は、一発解決に導くことではない。「自分の責任で精査する」と引き取り、冷却期間を置くことだ。もちろん早々に精査して再発防止に努めることも大事。

3 詳細な経緯説明はメールで行う
精査の結果を文書にまとめ、善後策も含めて相手にメールで送る。よほど深刻なトラブルでもなければ、謝罪はこれで一段落。ただし保身のためにウソを記せば、たいていバレる。当たり前だが、守るべきは我が身ではなく信頼だ。

(まとめ 島田栄昭)

齋藤孝
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。2001年に出した『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームに。ビジネスに役立つ「人付き合いのコツ」が紹介されている『大人の人間関係力』(日経BP社)が好評発売中。

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