恐竜はなぜ卵を割らずに抱けたのか 巣の化石から解明
恐竜の巣の化石に関する新たな研究で、巨大な恐竜が、どうやって卵を割らずに抱卵していたのか、その方法が見えてきた。巣の中で恐竜は、自分のまわりに卵をドーナツ状に積み重ねていたのだ。
英科学誌『バイオロジー・レターズ』に発表されたこの研究は、今日の鳥に見られる巣ごもり行動が、その祖先である恐竜の時代に始まっていたことを示している。
「卵を抱くという行動は、最初に恐竜において進化したのでしょう」と、論文の共著者であるカナダ、カルガリー大学の古生物学者ダーラ・ゼレニツキー氏は語る。
40個以上の巣化石を調査
ゼレニツキー氏のチームは、6500万年以上前に生息していた、鳥に似た恐竜オヴィラプトロサウルス類の巣化石を40以上調べた。オヴィラプトロサウルス類の体重は数キロのものから約1.8トンにもなるものまでさまざま。最大のものだと現在のカバやサイほどの大きさがあった。体の大きさに応じて、巣の大きさも直径30センチ程度のものから3メートルの巨大なものまで幅広い。
ゼレニツキー氏によると、小さな巣では卵がぎっしり集められていて、真ん中のスペースはほとんどないという。恐竜とその巣が大きくなるにつれ、真ん中のスペースが広くなり、卵の並べ方も手の込んだものになる。
「写真を見ただけでは、卵がどれほど見事に並べられているか十分にはわかりません。卵は2、3層に重なっていて、巣の中心に向かって高くなるように、らせん状に積み上げられているのです」
そもそもなぜ恐竜が巣を作ったのか、ゼレニツキー氏は正確なところはわからないという。「鳥が抱卵するのはほぼ、卵を温めるためです。けれども、オヴィラプトロサウルス類がどうして抱卵したのか、保護するためだったのか、それとも温めるためだったのかはわかりません」
まれな発見
2018年4月には別の研究チームが、モンゴルのゴビ砂漠で発見した「抱卵中の恐竜化石」について『American Museum Novitates』誌で報告している。化石の保存状態は非常に良かった。
研究チームを率いたアメリカ自然史博物館のマーク・ノレル氏と共同研究を行った米フロリダ州立大学の古生物学者グレッグ・エリクソン氏は、「非常にまれな発見です」と言う。なお、ナショナル ジオグラフィックは、この標本が発見された1995年の遠征の費用を一部出資している。
「キチパチ・オスモルスカエ(Citipati osmolskae)」というこの恐竜は、エミューほどの大きさのオヴィラプトロサウルス類だ。エリクソン氏は、この恐竜は、砂丘が崩れて生き埋めになったか、砂嵐に巻き込まれて死んだ後に砂に埋もれるかして、抱卵の姿勢を保ったまま保存されたのだろうと考えている。新たに発見されたほかの巣化石と同様、卵はドーナツ状に並べられていて、中心には成体の体重を部分的に支える程度のスペースがあいていた。
恐竜の性別は不明で、エリクソン氏は、今日の鳥の中には雄が抱卵するものもいると指摘する。どちらにしても、とても良い親だった。恐竜は、12個の卵の上に翼状の腕を広げたままの姿勢で息絶えていた。今日の鳥たちも、卵を隠したり雨風から守ったりするときに同じ姿勢をとる。
鳥の祖先
「これらはいずれも鳥が恐竜から進化してきたことの証拠です」と、ナショナル ジオグラフィックの支援を受けている英エジンバラ大学のスティーブン・ブラサット氏は言う。
「多くの人が、恐竜とは大きくなりすぎた愚鈍なトカゲだと思っていますが、全然違うのです」。実際、多くの恐竜はトカゲより鳥に似ていた。
エリクソン氏も、こう言っている。「家の外に出てごらんなさい。1万種の恐竜が飛び回っているのが見られますから」
(文 Erika Engelhaupt、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2018年5月21日付]
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