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BTSの最近の楽曲を見ると、『血、汗、涙』は、ムーンバートントラップという緩やかなビートに、エキゾチックなメロディーを乗せた1曲。EDMを取り入れた『DNA』では口笛のリフレインが入ることで、どこか切なさを感じさせるダンスミュージックに仕上がっている。そこに、メンバーたちが少年から大人に成長する過程で生まれた葛藤などを込めた歌詞が乗り、より説得力のあるオリジナリティーあふれる作品となるのだ。

「譜割り」が生むグルーブ感

(3)のスキルを象徴する例として、丸屋氏は「『譜割り』のうまさ」を挙げる。譜割りとは、音符に対する歌詞の乗せ方のことで、「彼らのレベルの高いラップのフロウ(歌いまわし)やライム(韻の踏み方)が、楽曲に独特のグルーブ感を生み出している」と続ける。RMはもともと、ヒップホップチームの「大南朝鮮ヒップホップ協同組合」に所属、SUGAもアンダーグラウンドでラッパー活動をしていた過去を持つ。ヒップホップリテラシーの高いメンバーの存在が、楽曲のクオリティーを押し上げているといえる。

また、「最近の洋楽トレンドを意識して、彼らの楽曲は音数を絞った洗練されたものが多い。そのすき間を埋めるように様々な歌唱法を駆使するなど、計算され尽くした緻密な構造となっている」(制作担当者)。実際、彼らの楽曲を聴くと、フェイク(音をあえてズラすこと)やベンディング(しゃくること)、ダブル(声を重ねること)など、多彩な歌唱パターンを1曲の中に盛り込んでいる。そのボーカルワークはまるで、複数の楽器を使い分けているかのような巧みさだ。「『Best Of Me』の冒頭部分では、JIMINがエモーショナルなブレス感を効かせて歌い始めますが、決して誰でもできるような歌い方ではない」(制作担当者)という。さらにそのボーカルに、リバーブやディレイといった残響系のエフェクトを効果的に入れることで、声色と楽曲にさらなる奥行きを持たせるのだ。

『FACE YOURSELF』 18年4月発売の日本3rdアルバム。既発の日本語バージョンの楽曲もマスタリングし直し、3曲の日本制作楽曲も含め12曲を収録。BTSの世界観を再構築した(ユニバーサル/2778円・税別・通常盤)

さらにBTSのこだわりは、日本語バージョンにも及ぶ。「彼らが日本語盤を制作する時は歌詞の意味はもちろんのこと、音数や譜割りまで原曲と合わせます。更に可能な限り、ラップのフロウやライムの位置までそろうように、原曲が3文字なら日本語詞でも3文字の言葉を選び、歌詞を練り上げていく」(制作担当者)という。

米ビルボードチャートを意識した徹底的なサウンド研究と、確かな歌唱技術に裏打ちされているBTSの楽曲。志高く成長し続ける彼らだけに、今後も世界を驚かせるような作品を次々と生み出すに違いない。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2018年5月号の記事を再構成]