本日はノーマネーデー ゲーム感覚で挫折しない貯金術
近頃SNS(交流サイト)でチラホラ見かける、アルファベット3文字「NMD」。「No Money Day」、つまり「お金を1円も使わない日」のこと。ここでは、現金やクレジットカード、電子マネーなどによる決済を一切しない日のことを指す。家賃や水道・光熱費、通信費、通勤費などはお金の使用に含まない。NMD(ノーマネーデー)が増えるほどに、お金もどんどんたまるシンプルな貯金テク。
日経WOMANが実施したアンケートからは、意識的か無意識かにかかわらず、すでにNMDがある人が多いことが分かった。貯金を増やす方法として「お金を一切使わない」という極端な方法が広がるのは、近年の「持たない暮らし」ブームとの関連もありそう。むやみに買い物をせず、あるものでシンプルな暮らしを楽しんでいこうという価値観の広がりの先に、NMDという新潮流が生まれたのかもしれない。
2018年2月、日経WOMAN公式サイトで実施。531人が回答。
回答者/平均年齢39歳 平均手取り年収/309万円
お金を毎日使うという人は約2割にすぎず、すでにNMDを取り入れている人が7割以上。NMDが週1~3回の人が多数派だが、週5回以上というツワモノも!
貯金のためという理由が圧倒的。お金を使わない生活自体が楽しいという人も約1割。他に「モノを増やしたくない」など、ミニマリスト志向の広がりとの関係もうかがえた。
コンビニやカフェに立ち寄りたくなる誘惑にも負けず、真っすぐ家に帰る人が約6割。財布へのお金の入れ方を工夫している人もいて、なかには財布自体を持ち歩かないという人も!
昼食時の出費がほぼ毎日ゼロという人が5割以上。「無料の社員食堂を利用」「先輩におごってもらう」という、羨ましい人もいたが、大半は、「お弁当持参」が理由。
挫折しないNMD貯金のポイントとは
「お金を1円も使わない日をつくり、その分を貯蓄に回す」という方法は、シンプルながら、うまく続けるにはコツも必要。家計見直しのプロ・市居愛さんにヒントをもらいました。
「常に合理的で正しい判断ができればいいのですが、頭で分かってはいても感情に流されて、ついムダ遣いしてしまうのが人間です」と市居さん。
既存の経済学では説明できない、人間の不合理な行動の法則性を研究する「行動経済学」という学問がある。モノの絶対的な価値より割引率が損得の判断に大きな影響を与える「アンカリング効果」などはその典型だ。
売り手はこうした消費者の心理を踏まえ、巧みに販売戦略を仕掛ける。「つまり、街なかもネット上もムダ遣いをしたくなるワナだらけ。何も対策しないと、感情に流されるまま、お金を失うのが人間のサガです」。
それを防ぐには、「必要なものだけを買い、それ以外は貯蓄に回す仕組みをつくることが大事。仕組みは先取り貯蓄でも500円玉貯金でもなんでもいいですが、NMD貯金も賢い選択です」。市居さんいわく、仕組みは「シンプルかつゲーム感覚で楽しめるものがうまくいく」そう。NMD貯金はまさに合致する。
「私自身はNMDを週2回以上つくっています。お金を使わないと決めた日は、手帳のスケジュール欄に星マークを付けておき、無事達成できたら、マークを塗りつぶします。買い物の欲求より、NMDという『ミッション』をクリアしたい気持ちが勝って、浪費を抑えられています」と市居さん。
NMDを習慣化するには、できるだけ低いハードルから始めるのがコツ。「お金を使わない日がゼロという人なら、まずは週1回から始めて。成功体験を積んで、徐々にステップアップしていくとうまくいきやすい」。また、財布や手帳の使い方を一工夫したり、SNSでNMDの記録や発信をしたりすると、より効果的に続けやすくなる。
行動経済学で分かる私たちが陥りがちなムダ遣いのワナ
人間の消費行動や意思決定時の心理について研究しているのが「行動経済学」。以下の4例は、行動経済学で説明されている買い物時の典型的な行動習慣だ。不合理な行動法則を知ることで、ムダ遣い防止につなげよう。
試食や化粧品カウンターの無料メイクなどで、店の人に親切にしてもらうと、お返しに「買わねば」と思う心理のこと。本当に欲しいとき以外、無料のお試しは避けたほうが無難……?
何か新しいものを買うと、それに合わせて「他も良いものをそろえたい」という衝動に駆られた経験はないだろうか。この心理に流されると、散財スパイラルに飲み込まれていく。
何かを「欲しい」と思うとバイアス(偏り)がかかり、無意識に購入を後押しする肯定的な意見を収集して、否定的意見に目を背けがち。冷静にマイナス面も直視することが大切!
「定価〇円の商品が60%OFFで△円」とあると、単に△円とあるよりお得に見える─。いかり(アンカー)を下ろすように、印象的な数値が基準となり、行動に影響を与える。
ムダ遣いを防ぎ、お金をためるには「仕組み」が必要。その仕組みのひとつが、NMD貯金だ。数ある貯蓄法のなかでもNMD貯金は実にシンプル。「NMDと決めた日は、なんとか工夫して1日を乗り切る。その試行錯誤をゲームのノリで楽しめるようになると、NMDが徐々に増え、それにつれて貯蓄もどんどん増えるはず」。
NMDという「仕組み」を「習慣化」するには、コツがある。「人間はいいことをすると、その後は少しくらい悪いことをしてもいい、という心理が働きがち」。だから、まずは週1回だけNMDにするなど、低いハードルから始めるほうが挫折しにくい。自分の意志を過信せず、人の目の力を借りるのも有効な方法。例えば、インスタグラムにNMDの記録を投稿するのも、習慣化の助けになる。
家計整理アドバイザー。マザーミー代表。自身の病気と夫の会社倒産で、夫婦同時に無職となる恐怖を体験。それを機に家計を立て直した経験とノウハウを、広く伝える活動をしている。著書に『お金を整える』(サンマーク出版)など。
(日経WOMAN 相良朋=アンケート編、ライター 元山夏香=最旬メソッド編)
[日経ウーマン 2018年5月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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