パルムドールに貢献 松岡茉優の真っすぐな「前進力」
私が最近、注目している女優の一人が松岡茉優さんです。23歳と若手でありながら、確かな演技力で仕事に真っすぐ向き合う姿勢には定評があります。妹のような雰囲気とその真っすぐな「前進力」で自分の周りにいればかわいくて仕方がないと思えるような女優さんです。
そんな彼女をテーマに原稿を書きたいと考えていたら、出演作の『万引き家族』(是枝裕和監督)が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた、というニュースが飛び込んできました。日本映画としては21年ぶりの快挙です。
公式会見の場で号泣
カンヌから届いた話題で特に私が注目したのは、公式会見の場で松岡茉優さんが号泣したというニュースです。
是枝監督が女優・樹木希林さんの存在の大きさについて語る中、キャストの松岡さんが大粒の涙を流す一幕があったとのこと。
私も改めて公式のYouTube動画にて会見の模様を拝見しましたが、是枝監督が『海よりもまだ深く』『海街diary』『そして父になる』等、数多くの作品で樹木さんを起用する理由について質問された際、「僕は自分がつくるものを希林さんが出ていただけるものにするために努力をします。努力しないで甘いまま彼女の前に立つと見透かされるので、希林さんの前では恥ずかしくない監督でありたいと思っているんです。そういう役者がいることは監督にとって大切です」と、樹木さんの存在の大きさについて熱く語っていました。と同時に、その横並びで会見に応じていた松岡さんの目からとめどない涙があふれ出てきたのです。
監督と樹木さんとの信頼関係や熱い絆のエピソードに触れ、その言葉一つひとつに松岡さんが感動している様子が美しい涙から伝わってきました。
23歳とはいえ、役者として松岡さんの演技力は高い評価を得ています。第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を含む3部門で最優秀賞を受賞した『桐島、部活やめるってよ』(2012年)では、今どきの女子高生役を自然体で演じ、その演技力の高さが様々なメディアで話題になりました。
その後もNHK連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『真田丸』など話題のドラマに出演し、最近では『水族館ガール』(NHK)などTVドラマでも主役を務めるまでに成長しています。若くして、役者としての実力は十分に発揮され始めていると言えるでしょう。
一般社会で23歳といえば、大学卒業後に社会人2年目になった頃。企業人としてはごく若手の部類です。上司や先輩からしてみれば若手として思う存分に力を発揮してもらいたい年代です。
そうした頃に、松岡さんのような真っすぐな「前進力」で目の前にある仕事と向き合い、上司や先輩が見せる姿勢や言葉に感受性豊かに反応する若手は、かわいくて仕方ない存在と言えるのかもしれません。そのエネルギーはチームに活気を与えます。
おそらく来年あたりの「部下にしたい有名人」ランキングでは、上位にランクインしてくるのではないでしょうか。
上司、先輩としてすべき気遣いとは
とはいえ、先輩としては後輩の持つその若さゆえのキャラクターと存在感に甘えすぎても良くないように思います。
公式会見の場で涙を流した松岡さんの様子からもわかる通り、真っすぐに人や物事と向き合うような若い人材は、感受性も高く、センシティブに反応しやすい一面があります。
あまり頑張りすぎて自身の限界に達してしまわないように、日ごろからさりげなく気を配っておくことも上司や先輩としての務めなのではないでしょうか。
是枝監督の作品に初参加した松岡さんですが、撮影現場での居心地はとても良かったそうです。その空気感は、4月に行われた完成披露舞台挨拶の場でのやりとりからも感じました。
松岡さんは会見の中で「樹木さんが私の顔に特徴がないって毎日毎日言ってくださって」と明かすと、樹木さんが「でもなんか人気があるみたいじゃない。観客動員お願いしますよ」とコメント。それに対し松岡さんは「旬な感じのグループにはいます。宣伝は一生懸命やろうと思っています」と答えていました。
「是枝組」に初参加の松岡さんを気遣って、樹木さんがさりげなく毎日のように「いじっていた」様子が目に浮かぶようです。ベテラン女優からのさりげないコミュニケーションだったのでしょう。そうした現場での気遣いに対する感謝がカンヌでの涙につながっているように思えてなりません。
そんな気遣いのできる上司や先輩と真っすぐな「前進力」のある部下がチームを組めば、きっと多くの事業やプロジェクトで成果を出しやすくなるはずです。
松岡さんを見ていると、私自身も真っすぐな「前進力」を持ち合わせている若手のビジネスパーソンに出会った際、彼らの良さを最大限に生かしてあげられるように努めていきたいなぁ……という気持ちが強まります。
経済キャスター、ファイナンシャル・プランナー。日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やWeb(ニュースサイト)にてコラムを連載。主な著書に『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。株式市況番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重TV・ストックボイス)キャスターとしても活動中。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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