もしや更年期障害? 甲状腺の機能低下も確認を
不調が続く甲状腺疾患(下)
甲状腺の病気は女性に多く、症状が似た更年期障害や産後うつなどと間違われることもあるが、きちんと治療すれば元気を取り戻せるという(前回記事「若い女性の大量発汗・体重の異変… バセドウ病かも」はこちら)。3回目は甲状腺ホルモンが少なくなって発病する甲状腺機能低下症について説明する。
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すぐに疲れる、やる気が出ない、食べる量は同じなのに太る、むくみもひどい、体が冷える、月経が不順、肌がカサカサ、抜け毛も気になる。なんだかぐっと老けこんだみたい──。
これらの症状に思い当たる人は甲状腺機能低下症かもしれない。必要な甲状腺ホルモンを作ることができず、全身の新陳代謝が低下する。原因はいくつかあるが、最も多いのは甲状腺に慢性の炎症が起こる「橋本病」だ。初期の段階では自覚症状はないが、甲状腺機能低下症に進むと、様々な不調が現れてくる。40~50代の女性に多いため、「もしや更年期では!?」と勘違いする人も多い。
甲状腺を異物と見なして攻撃する自己抗体ができるのが原因。これにより甲状腺が徐々に破壊され、甲状腺ホルモンが作られなくなる。「女性の約30人に1人はこの自己抗体を持っているが、機能が低下するところまでいくのは3分の1程度。若い頃から徐々に進行し、40~50代になって機能低下症の症状が現れてくる人が多い」と山田院長は解説する。
じわじわ進むので、首の腫れや様々な不調を「太ったから」「年のせい」などととらえ、病気であることに気づかない人が多いという。冒頭のような症状がある人は、まずは甲状腺の異常を疑って血液検査を受けてみよう。家族に甲状腺の病気になった人がいる場合は、そうでない人より病気になるリスクが高い。
治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補う。少量の投与から始め、その人に合った量を見定める。「1~4カ月ほどでホルモン量が正常になり、つらい症状が消える。元気になって、見た目も若返る人が多い」と山田院長。薬とは一生の付き合いになるが、「毎日きちんと服用すれば、日常生活にはまったく支障がない。眼鏡と一緒で、上手に付き合うことが重要」と山内理事長はアドバイスする。
昆布エキス・うがい薬などによるヨウ素の過剰摂取に注意
甲状腺ホルモンは食事で取るヨウ素から作られるが、必要とされる量はごくわずか。ヨウ素を含む食品などを過剰に取り続けると、甲状腺が腫れたり、甲状腺機能が低下したりしてしまう。
ヨウ素を多く含む代表的な食品は昆布。そのまま食べるのはもちろん、だしや調味料などにも含まれているから、日本人は普段から十分な量を摂取している。「それなのに健康にいいからと根昆布や昆布エキスを取り続けたり、ヨウ素入りのうがい薬を毎日使ったりする人もいる。過剰摂取につながるのでやめたほうがいい」と山内理事長は注意を促す。
橋本病の人は特にヨウ素の取りすぎに気をつけよう。まだ甲状腺機能が低下していない橋本病でも、過剰摂取をきっかけに低下症になることがある。また、甲状腺に異常のない人でも過剰に取り続けると機能が低下する(取るのをやめると元に戻る)。なお、ワカメやノリなど、昆布以外の海藻は含有量があまり多くないので、それほど神経質になる必要はないそうだ。
金地病院(東京都北区)院長。東京女子医科大学卒業。同大学病院内分泌内科(現内分泌センター)を経て、1991年から甲状腺専門病院の金地病院院長を務める。日本内科学会総合内科認定医、日本甲状腺学会専門医。
山内クリニック(さいたま市)理事長。愛媛大学医学部卒業。野口病院、伊藤病院などを経て、2012年に甲状腺専門外来を開設。日本甲状腺学会専門医、内分泌外科専門医。著書に『症例解説でよくわかる甲状腺の病気』(現代書林)。
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2018年6月号の記事を再構成]
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