「あることを好きな人が、なぜ好きなのか、どこに感動しているのか、ファンが大事にしているポイントは何か。普通の人が見れば『ああ、わかった』となってしまうところを、私は『なぜあそこで涙を流すのだろう?』といちいち引っかかる。幸いなことに、一個一個わからないから、合理的にかみ砕こうとします。だから主観で間違って解釈することもない」

USJを退社し、マーケティング会社を設立した森岡毅氏。現在CEOを務める

「マーケティング部長とかいう立場になると、事務仕事が多くなってくるので、そういうことを部下に任せがちです。でも部下が出してくる提案が消費者目線になっているかどうか、きちんと判断できるのか。そういう決定権を持つ人が消費者を理解していない、というのが多くの企業の問題点です。立場が上であればあるほど、消費者に向き合わないといけない。それができないなら第一線から退くべきだと思います」

組織改革、「自己保存」の本能を逆手に

――第三セクターから始まったUSJは「お役所的」な組織だったようです。どのように変えていったのですか。

「多くの会社は人間の本能に逆らわないと正しいことができない組織になっています。人間の本能は自己保存。リスクを避けます。発言すると叩かれると思ったら何も言わない。リーダーシップをとるとつぶされるから余計なことはしない。こうした自己保存を逆手にとって、会社が望むような行動に変えるようにしました」

「具体的には、年功序列を廃して相対評価システムを入れました。より多く発言した人、リーダーシップを発揮してリスクをとった人などを評価する。去年と同じことをして結果を出した人よりも、違うことをやってちょっと失敗した人を評価するようにしたんです。スイング・ザ・バット基準と呼んでいました。新しいことをやらないと給料は上がらず、出世もしないわけです」

――開発とマーケティングが対立するケースもありそうです。

「CMOになる前は、売れるためにこういうものをつくりたいと思いついても、開発部隊に直接オーダーする権限を持っていませんでした。しかし研究開発はマーケティングにとって欠かせない能力です。マーケティングと研究が分かれているのが組織の大問題。並列になっていると売り上げはつくれません。研究開発部門を傘下にしていないCMOなんてCMOじゃない。開発とマーケティングを連動させるのがCMOの役割です」

「会社には4つのシステムがあります。マーケティング機能、ファイナンス機能、生産管理機能、組織管理機能です。研究開発は、生産管理の下に置かれることが多いですが、それが違うんです。スペックを決めるまでがマーケティング、スペックを決めるのが研究開発、決められたスペックで効率良くつくるのが生産管理。マーケティングの本質はつくったモノに値段を付けて宣伝をすることじゃない。マーケティングっていうのはプロダクトのずっと川上から始まってるんです。市場分析してどこで戦うかを決める。そこに研究開発のリソースを集中させることができれば勝てる確率が高まります」

説得に使える「社内マーケティング」

――ハリー・ポッターも映画依存脱却も、最初は社内の反対があったようです。どうやって説得したのですか。

「当時はそんなことをしたら遊園地になるとか、特徴がなくなるとか、様々な反論がありました。しかも当時の私の立場はCMOではなく部長の1人。森岡メソッドのデビュー戦は強烈な風当たりの中でスタートしました。3つのことに気を付けました。1つはとにかく同じことを言い続ける。2つ目は予言を当てる。例えば『クリスマスはツリーも何も変える必要はない。私の言う通りにTV広告を変えれば集客がアップする』と言って、その通りの結果を出しました。3つ目はトップのサポートを得ることです。社長が認めているという前提がないと、さすがに当時の私の職務権限では何もできなかった」

――社内の交渉で大事なことは。

「自分の提案を上司に買ってもらう確率を高める手を考えます。つまり『社内マーケティング』です。みんな方法論で堂々巡りしていますが、相手と目的を擦り合わせることに第一歩がある。もし私がUSJでいきなり、映画だけのテーマパークをやめてアニメやゲームなどあらゆるジャンルのコンテンツを呼び込もう、と言ったら絶対にうまくいかなかったでしょう」

「私がまず話したのは、『USJはそもそも集客を2倍にするポテンシャルがある。でも2倍とれたはずなのに、半分になってしまったのはなぜか、成長を妨げているまずい原因がありますよね。次に会うとき、その内容を説明するので、社長も本部長も考えてみて下さい』ということです」

「2倍になって当たり前、とみんなの頭に刷り込むわけです。するともちろん、2倍にする方法を聞かれます。そこで初めて、映画の専門店をやめましょうか、と切り出します。目的を共有化して大きな戦略の骨子で同意を得てから具体策を売り込むのです」

「頭でわかってもらうまでは簡単でも、心がついていかないこともあります。最終的に相手を動かすのは正攻法だと思います。私が世間の人と違うのは、プレッシャーがあってもへこまず、同じことを言い続ける忍耐力かもしれません。大きな決断をするときには、当時の社長と何度も激論を交わしました。刀折れ矢も尽きて、私の武装が全部なくなった後、腹の底から信じていることを相手に伝えたいという真実の迫力みたいなものが出てくる瞬間があります。そこを見極めて信じてくれたのだと思います」

プロのマーケターは医者のようなもの

――任天堂エリアなどに道筋をつけてUSJを退社されました。

「沖縄進出がだめだったから腹を立てて辞めたんじゃないかとか、病気説とか色々噂されました。全部違います。プロマーケターは企業の医者みたいなものだと思うんです。医者は、患者を元気にした後、ずっと横に居続けるものじゃありません。それは患者のためにならない。私がUSJからいなくなって、ようやく仕事の真価が問われると思っています。私の言ってきたことが科学なら、辞めても業績が落ちるわけがない。そして実際にUSJは好調を維持しています。それが私の小さな誇りです」

――これから挑戦したいことは。

「何もないところに線路を引くようなこともやってみたいですね。USJに入ったときには設立から10年たっていて、誰かがつくったひな型がありました。刀が動くことで日本を変えられるとは思いませんが、そのきっかけにはなれると思うんです。USJが動くことでテーマパーク業界が元気になった。僕らがつくる新しいレールが日本を大きくするきっかけになる、そんな仕事に挑戦したい。それが私の夢です」

森岡毅
神戸大学経営学部卒業後、1996年プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、04年にP&G世界本社へ転籍。ウエラジャパン副代表を経て、10年にUSJ入社。12年、同社CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)。17年、独立して現職。

(安田亜紀代)

マーケティングと は「組織革命」である。 個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド

著者 : 森岡 毅
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税 込み)

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