ジミすぎる「オレ流改良」 マツダの新型CX-5
「内外観は全く変わっていません」と担当者がいきなり正直に明かした、マツダの2代目「CX-5」改良版。2018年3月8日に発売されたが、フルモデルチェンジから1年で、どこを変え、何を進化させたか。そして、CX-5の進化を小沢コージ氏はどう評価したか?
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マツダならではの「変えない」という理想主義
その昔、「なにも足さない、なにも引かない。」というコピーをはやらせた国産本格ウイスキーのCMがありましたが、ふとあれを思い出しちゃいました。マツダの屋台骨ミディアムSUV、新型「CX-5」! 2017年2月に2代目へとフルモデルチェンジしてから約1年で商品改良を受けたわけですが、担当エンジニアはいきなり
「内外観は全く変わっていません。変わったのはエンジンと一部機能だけ」と正直に吐露。
つくづく面白いメーカーです、マツダさん。通常この手の小改良は「マイナーチェンジ」と称され、さほど中身は変えない一方で、変わった感を出すために見てくれを効果的にイジり、販売台数の上昇を狙うことが多いのです。ところがフルモデルチェンジ後まだ1年ということもあってかマツダ流は全くの逆。
見た目はまったく変えずに、中身を変えることで客へのアピールを狙っているわけです。このだまし合いが常とう手段になっている現代社会の中で、ピュアな真心で勝負しているかのようなストレート戦略。
マスコミ的には興味を引かないけれど
実際、新型CX-5で変わったのは主力パワートレインたる2.2Lディーゼルターボと、かつて脇役だった2.5L&2Lガソリンの大幅改良。あとは「360°ビュー・モニター」とリアの「パワーリフトゲート」をオプション設定できるモデルを増やしたことと、「車速感応式オートドアロック」の全車標準装備と「4席オートパワーウインドー&イルミネーション」の初採用ぐらい。なんともジミ過ぎる改良。
しかもこの新型2.2Lディーゼルターボは、実は17年12月発売の「CX-8」で初搭載された改良型。それを兄弟SUVにもすぐ反映させて搭載する姿勢はマジメっちゃマジメですが、すでにこのエンジンの味を知っているのでマスコミ的には興味を持ちにくい。でも、それをあえてやりきるのが今のマツダ理想主義なのです。
前述の通り、見た目は1年前と全く同じです。他社は何かと手軽に印象を変えられるフロントグリルやライト類の意匠変更をやりますが、そういうのは一切なし。内装も細かいベゼルに至るまで全く同じです。
最大の注目はマツダ初の気筒休止システム
さらにCX-5の全販売の7~8割を占める新型クリーンディーゼルは、すでにCX-8に搭載されて好評なパワーユニット。
改良部分はざっくり「段付エッグシェイプピストン」「超高応答マルチホールピエゾインジェクター」「可変ジオメトリーターボチャージャー」の採用。結果、燃料を1爆発で最大6回も噴く急速多段燃焼が実現。これによりピークパワー&トルクが190ps&450Nmへと大幅アップするだけでなく、特に低速トルクの豊かさが改善。
小沢もチョイ乗りしましたが、出足から軽くアクセルを踏むだけで滑らかに加速。細かく燃料を燃やすことで、燃焼音も減ったようです。とはいえそれは兄弟車のCX-8で分かっていたこと。
なんでこんなにジミなの!と言いたくなるメカニズム
よって今回の注目はやはり2Lと2.5Lのガソリンエンジンの改良。特に2.5Lのほうです。どちらも燃費向上や耐ノッキング性向上を見込んでエッジカットピストンの形状変更、水流制御バルブ、低抵抗ピストン&ピストンリング&オイルシールの採用、そのほかサーマルマネージメントや燃料噴霧改善にも努めていますが、何より2.5Lガソリンに初採用された気筒休止システムがユニーク。
これは1980年代からある技術で文字通り、走行状況に応じて多気筒エンジンの一部気筒を爆発させずに休ませることにより、ムダを省く技術。両足でこいでいた自転車のペダルを、パワーが要らないときに片側だけこぐようなものです。
従来はV型エンジンに使われることが多く、かつてキャデラックのV8やホンダのV6エンジンが時に片バンク休止を行いました。今回マツダは、4つの気筒が横に並ぶ直列4気筒エンジンをベースにそのうちの2気筒を休ませる戦略。
微妙にオレ流! でも静か過ぎて気付かない
しかもこの手で先達とも言える2012年登場のフォルクスワーゲンの直列4気筒ターボが真ん中2気筒を休ませていたのに対し、マツダ流は外側2気筒を休ませるのです。「真ん中2気筒を爆発させるほうが、フライホイールに近くて振動を消しやすい」という理由のようですが、これがまずひとつめのマツダ式オレ流。
そのうえこの新型2.5Lエンジンは、聞いたことない「振り子ダンパー」いう緩んだフライホイール的なものでさらに振動を打ち消し、気筒休止そのものもVWとは違う「スイッチャブルHLA(ハイドロリック・ラッシュ・アジャスター)」という技術を使います。
ちらほらとマツダ式オレ流が垣間見えるのが何ともたまらないのです。
この気筒休止機能、具体的にはパワーを必要としないクルージング時、つまりアクセル開度10%ぐらいで走っているときに作動するようで、燃費削減効果は時速80kmの一定走行で9%ほど。
しかし、気筒休止システムがどこまで利いているのか、感覚的にはまったく分かりません。2気筒が作動しないぶん、理屈では振動は増えると言いますが、振り子ダンパーが効いているのか、全く分かりません。試乗車に後付けされたスマホインジケーターでやっと分かる程度。正直、ちとダマされたような気分にもなる技術なのです。燃費が本当に上がってるのならいいですが。
実際、カタログ燃費を見ると2.5L モデルのモード燃費はFFは14.8km/Lで変わらずですが、4WDは出力が上がったこともあってか微妙減少。このあたり、なんとも正直過ぎるマツダっぽいデータ。気筒休止システムはおそらく実燃費に効くのです。走った感じもピークパワー&トルクは188ps&250Nmで、ディーゼルターボに比べると力強さでは負けますが、1.6トン台のボディーを十分引っ張り、静かさはディーゼル以上。
これでCX-5にもガソリンという有力な選択肢が増えたことになります。とはいえ価格を気にしなければやはり小沢はディーゼルを選んじゃうような気がしますが。
ウソをついてもバレるネット時代向きかも?
ってなわけで理想主義なマツダならではの、マジメ過ぎる作戦のようにも見える新型CX-5の商品改良。しかし、考えようによってはイマドキと言えなくもありません。それは最近のゴシップに代表されるように、今やインターネットによって誰がかつてどう言ったか、何がどう変わったかが視聴者にすぐバレてしまう時代。情報はたくさん残ってますし、小手先だけの変更だと逆に印象を落としかねません。
そうでなくてもマイチェンでデザインを変えて改悪となった例は枚挙にいとまがなく、そうそう簡単に美しいデザインは生まれ得ないものなのです。
また旧型オーナーにしてみれば新型は変わらなければ変わらないほどうれしいのもまた真実。特にマイナーチェンジで大きく変わるとガッカリします。自信を持って出した自らのデザインを長く大切にする。これはこれで正しい考え方であり、顧客満足度を上げる効果もあるのです。
すでにグローバルで25万台以上、国内でも4万台以上を売った2代目マツダCX-5。これはこれで正しいブランディングなのではないでしょうか。
とはいえ売らんがために目新しさを追いがちな自動車づくり。変えないことと変えること、両者のあるべきバランスを見付けるのは実際すごく難しいことだと思っています。
自動車からスクーターから時計まで斬るバラエティー自動車ジャーナリスト。連載は日経トレンディネット「ビューティフルカー」のほか、『ベストカー』『時計Begin』『MonoMax』『夕刊フジ』『週刊プレイボーイ』、不定期で『carview!』『VividCar』などに寄稿。著書に『クルマ界のすごい12人』(新潮新書)『車の運転が怖い人のためのドライブ上達読本』(宝島社)など。愛車はロールスロイス・コーニッシュクーペ、シティ・カブリオレなど。
[日経トレンディネット 2018年5月9日付の記事を再構成]
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