夏の新スマホは複数カメラ搭載 写真と動画同時撮影も
佐野正弘のモバイル最前線
2018年の夏商戦に向けて、大手キャリアやメーカーからのスマートフォン(スマホ)が出そろった。注目されるのはカメラを二つ搭載したデュアルカメラの機種が増えていること。カメラを三つ搭載した機種まで登場した。こういった「複眼」のカメラでは、2つ目、3つ目のカメラの用途はメーカーごとに大きく違う。スマホの個性を打ち出す場になっている。
本格的な複眼カメラの波が到来
複眼カメラを搭載した機種はこれまで、アップルの「iPhone X」やサムスン電子の「Galaxy Note 8」、ファーウェイの「HUAWEI Mate 10 Pro」などが日本市場に投入されてきた。いずれも、海外メーカーのものだ。だが今回は、国内メーカーもハイエンドモデルを中心として複眼カメラを搭載するようになった。複眼カメラが普及期に入りつつあることが見えてくる。
今回発表された新機種の中で、比較的スタンダードな複眼カメラの使い方をしているのが、NTTドコモやauから発売されているサムスン電子製の「Galaxy S9+」である。
Galaxy S9+は背面に1200万画素のカメラを2つ搭載しているが、一方は視野角が77度と広範囲を撮影できる広角レンズ、もう一方は光学2倍ズーム相当の撮影ができる望遠レンズを採用している。それゆえ通常時は広角レンズで撮影し、遠方の被写体を撮影したい場合は望遠レンズに切り替えて撮影するといった使い方ができるほか、一方のカメラで被写体との距離を測ることにより、一眼レフカメラのようなボケ味のある写真を撮影できる「ライブフォーカス」も利用可能だ。広角と望遠という組み合わせはiPhoneで複眼カメラを採用している機種と同じだ。
動画撮影で個性を打ち出す国内勢
複眼カメラの採用では後発となる国内メーカーは、従来にはない複眼カメラの活用によって、新しい撮影スタイルを提案することを重視している。
その1つが、大手3キャリアから発売されるシャープ製の「AQUOS R2」である。この機種に搭載されている2つのカメラは、一方が静止画の撮影専用、もう一方が動画撮影専用となっている。それゆえ動画を撮影しながらでも、綺麗な写真を撮影できる。さらに動画撮影中に、AIが自動的に被写体を判別して写真を撮影する「AIライブシャッター」といった機能も用意している。
なぜ写真用と動画用のカメラを完全に分けたのかというと、「動画のニーズは高まっているが、動画と写真のどちらを撮るか迷ってしまうケースがある」(シャープ・通信事業本部パーソナル通信事業部事業部長の小林繁氏)ためだという。写真の場合は被写体をくっきり残し、背景はぼかした方がよいとされるが、動画では被写体だけでなく全体の風景を取り込み、臨場感がある方が好まれる。そのため、AQUOS R2では静止画用のカメラは精細さを重視した約2260万画素のイメージセンサーを採用する一方、動画用のカメラには背景を広く映せるよう、約1600万画素ながら、視野角135度の超広角レンズを採用した。
そしてもう1つは、NTTドコモやauから発売される予定の、ソニーモバイルコミュニケーションズ製の「Xperia XZ2 Premium」である。こちらは2つのカメラを、非常に暗い室内であっても明るく撮影できるようにするために活用しているのが大きな特徴だ。
Xperia XZ2 Premiumは約1220万画素のカラー撮影ができるカメラと約1920万画素のモノクロカメラを搭載する。それら2つのカメラで撮影した写真を、「AUBE」という専用の画像処理プロセッサーでリアルタイムに合成することにより、カメラが光を捉える能力を示す「ISO感度」が、静止画撮影時で51200、動画撮影時でも12800となった。前機種のXperia XZ Premiumでは静止画で12800、動画で4000という感度だったが、静止画で4倍、動画でも3倍以上高感度になった。
スマホのカメラは光の量が少ない室内で撮影することが多く、そうした場所でも被写体を明るく、ブレがないよう撮影できることが求められている。それゆえ各社とも、いかに暗い場所でも明るく撮影できるかに力を入れているのだが、1枚の画像だけを明るく処理できればよい写真とは異なり、動画は撮影中の映像を常に明るく映し出すよう処理を施す必要があるため、技術的な難易度が高い。Xperia XZ2 Premiumは、動画をいかに明るく映し出すかを考えた結果、2つのカメラを活用するという解に至ったようだ。
「3眼」のスマホも登場
ここまで2つのカメラを活用した機種を紹介してきたが、今回の夏商戦向けモデルでは、さらにカメラを追加し、3つのカメラを搭載した機種も登場している。それがNTTドコモから発売される予定の、ファーウェイ製スマホ「HUAWEI P20 Pro」である。
ファーウェイは複眼カメラの人気の火付け役でもあり、モノクロとカラーの2つのカメラを搭載し、双方で撮影した画像を合成することにより繊細かつボケ味のある写真を手軽に撮影できる「HUAWEI P9」が世界的にヒットして以降、2つのカメラを搭載した機種を多数投入している。だがP20 Proでは、モノクロ、カラーに加えもう1つ、新たに光学3倍ズーム相当の撮影ができる約800万画素の望遠カメラを追加しているのだ。
これを追加したことで大幅に強化されたのがズーム撮影である。ズーム撮影の弱さは、スマホのカメラにおける最大の弱点と言われて久しいが、P20 Proは望遠カメラと他の2つのカメラを活用し、デジタルズームながら5倍ズームまで画像が荒くならない、独自の「ハイブリッドズーム」を実現。そこからさらに最大10倍までのデジタルズームが可能だが、10倍ズームした被写体も細部が崩れることなく、しっかり表現できているから驚きだ。
またP20 Proは、メインとなるカラー撮影用のカメラに、約4000万画素で1/1.7インチサイズという、高級コンパクトデジタルカメラに搭載されているような大型のイメージセンサーを採用。写真に限れば、Xperia XZ2 Premiumをも上回る102400というISO感度を実現しているのだ。カメラの評価が高かった同社のP10/P10 ProはISO感度3200であり、30倍以上も感度が上がった。なお、多くのスマホはISO感度を公表していないが、3200というのは平均的と思われる。
ファーウェイの関係者によると、これだけ高いISO感度を実現するためには、イメージセンサーの4つの撮像素子を1つにして用いることで、光を多く取り込む「4in1ライトフュージョン」という独自の技術を活用しているとのこと。4000万画素のイメージセンサーを1000万画素として用いる代わりに、被写体を明るく映し出すことができるのだそうだ。
最近は「どの機種も個性に乏しい」と言われるスマホだが、複眼カメラの活用によって各メーカーのスマホが、再び際立つ個性を備えるようになったことが見えてくる。スマホを買い替えたいと考えているなら、あえてブランドではなくカメラ機能の違いで選んでみると、新しい発見が得られるのではないだろうか。
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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