若手日本人チェリストの筆頭格、伊藤悠貴氏(28)が、ロンドンの名門ウィグモアホールで初のソロ公演を6月に催す。全演目が得意のラフマニノフ作品という英国公演への意気込みと、この作曲家に傾倒する理由を聞いた。
ウィグモアホールはドイツのピアノ製作会社ベヒシュタインが1901年に建造し、開館したのが始まりだ。552席と比較的小さなホールながら、室内楽や器楽の演奏会用としての音響は世界最高峰といわれる。「15歳からロンドンに住んだ僕にとって、ウィグモアホールでリサイタルを開くのは夢だった」と伊藤氏は言う。6月2日にその夢が実現する。
■ウィグモアホール公演は全演目ラフマニノフ作品
父の赴任に伴い渡英し、2010年にブラームス国際コンクールで優勝。続く11年には英国の最高峰といわれるウィンザー祝祭国際弦楽コンクールで日本人として初優勝した。同年に英国の名門、フィルハーモニア管弦楽団の定期公演で協奏曲を弾いてメジャーデビューも果たした。英国王立音楽大学を首席で卒業。英国王室の御前演奏の実績も持つ。20代の若さで揺るぎない国際的地位を確立した伊藤氏にとっても、音楽界の殿堂ウィグモアホールでのソロ公演は格別のイベントのようだ。
公演のプログラムも画期的な内容だ。「全演目がラフマニノフ作品というチェリストの公演はウィグモアホール史上初とのことです」と伊藤氏は胸を張る。「いろんなプログラムを検討したが、やはり最も思い入れのある作曲家の作品を弾きたい。そこで全曲をラフマニノフ作品にすることにした」と言う。
セルゲイ・ラフマニノフ(1873~1943年)はロシアに生まれ、ロシア革命に伴い米国に移住し、ロサンゼルス郊外ビバリーヒルズで没した作曲家。音楽史上で最高レベルのピアニストでもあったという。20世紀半ばまで存命で、しかもオーディオ先進国の米国で活躍したことから、彼の自作自演のピアノ演奏が録音として残っており、幸いにもこの作曲家のピアノの腕前をCDで聴ける。
ピアニストだったため、代表作にもピアノ協奏曲やピアノの独奏曲が挙げられがちだ。特に「ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18」は人気が高い。こうしたピアノ曲中心の作曲家にチェリストの伊藤氏が心酔する理由は何か。