「自信なさげに正しいことを言うくらいだったら、自信ありげに間違ったことを言う方がまだマシだ」と言われたこともありました。もちろん、これはあくまでもスタンスの話であって間違ったことは言ってはいけませんが、それくらい、自信のなさは悪だということです。どんな状況でも不安を一切表に出すことなく、いったんお客さんの前に立つ以上は「自信があるように振る舞う」ことも仕事のうちなのだと思うようになりました。
一方、お笑い養成所時代、一番よく言われたことがやはり「自信を持つこと」「堂々とすること」でした。当時同じクラスに、ネタの内容はともかく、いつも自信たっぷりにネタを披露する同期の子がいました。一体どこからその自信は湧いてくるのだろうとさえ思わされるものでした。するとそれだけで「この人、すごいな」と思わせるパワーが発揮されるのです。セリフが浮ついていたり、声が震えていたり、演者が自信なさそうに見えた瞬間にお客さんは不安になり、当然笑えなくなります。笑ってもらうためにはまずは安心して見てもらうこと。そのためには張りぼてでもいいから、いったん人の前に立つ以上は自分を信じて堂々とお客さんにネタを届けるしかありません。
お笑いにも客観的な「絶対」や「正解」は無いので、「本当にこれでいいのだろうか」と考え始めると止まらないし、人前で初めてネタをやるときはいつも恐怖との闘いでしたが、どちらにせよステージに立つとなれば、自分がやることを正解と信じて自信を持って堂々とするように、ということはしょっちゅう言われたことです。その堂々としている「さま」が人の心を動かすのではないでしょうか。
一見するとマッキンゼーとお笑いは180度違う業界のように思えますが、お客さん第一で、お客さんに喜んでもらうためのサービスを提供するという意味では本質的に共通しているのだと思います。(つづく)
1983年生まれ、東京都出身。白百合学園中学校・高等学校から東京大学文科三類に入学。工学部社会基盤学科卒、東大大学院修了後、2008年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、お笑いタレントを志して09年夏に退社。TOEIC990点(満点)、英語検定1級取得。現在、ワタナベエンターテインメント所属のお笑いタレントとして活動中。