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畑から作るイタリア料理 小林シェフが問う日本の食 ガストロノミー最前線(9)

2018/6/12

真っ黒に焼いた長ナスと熊野牛

畑を耕す料理人が増えている。素材主義の到達点、地産地消の一手段、農への意識の高まり、自分の味を追い求めて、と意味合いは様々だが、ヴィラ アイーダ(和歌山県岩出市)小林寛司シェフの場合、そんな畑の存在が料理のクオリティーを格段に向上させてきた。

イタリア料理人たちの考え方が変わり始めたのは約10年前だ。本場の食材を取り寄せて現地の味を再現するより、周囲にある食材で自分の土地の味として表現するシェフが増えた。「土地に根付くのがイタリア料理の実態だから」と彼らは言う。味をなぞるより、ありように倣う。その発端となった一人が和歌山県岩出市「ヴィラ アイーダ」の小林シェフである。

■種まきから料理が始まる

「ここでしか、僕にしかできない料理を」と、野菜を作り始めて15年。店に隣接する露地畑と店から徒歩数分の所にある3棟のハウスで年間100種以上の野菜を栽培する。

自分の料理に必要な野菜を育てるため、少量多品種栽培。ナスなら、千両ナス、長ナス、水ナス、白ナス、緑ナス、白卵ナス……といった具合だ。フェンネル、ラディッキオ、チーマ・ディ・ラーパなどイタリア料理に欠かせない野菜も多い

畑は彼にいろんな作用を及ぼしてきた。たとえば、1種類の野菜が1種類じゃないとの気付き。「成育度合いやサイズによって、野菜の味は刻々と変わる。それぞれに異なる調理の可能性がある」。畑とキッチンが連動することで、料理に無限の広がりが出た。「思い通りに育たないことも多い。だからこそ発想が生まれる。野菜に合わせて何ができるかを考えることで、新しい料理ができていく」

逆に料理からさかのぼって野菜を育てるという側面もある。提供したい時期から逆算して種をまき、思い描く料理に合わせて育てる。1~2週間ずつずらしてまき、シーズンの間は常に収穫できるようにもする。小林シェフにとっては畑はキッチンの一部になっている。

同世代の地元農家と切磋琢磨(せっさたくま)も同時進行。「株を太く、アクを強く」とリクエストを出し、「パセリやセルフィーユなど、普通なら根を落として売りに出される野菜の『根がほしい』といったオーダーも出します」。意外なリクエストは、栽培のプロにとっては「そんな育て方、使い方があったのか」という刺激となる。

■畑が及ぼすメリット

畑と厨房を行き来する中で小林シェフの料理の精度は格段に上がった。なにしろ素材の熟度と、それに適した調理法と仕上がりイメージが、ピンポイントでリンクしているのだから。

<料理解説>
真っ黒に焼いた長ナスと熊野牛。強火で一気に焼いた長ナスは身がとろけるようなジューシーさ。熊野牛の脂に包み込まれて、陶然となる味わいを描き出す。パルミジャーノ、ハーブ、畑の間引き野菜を添え、オリーブオイルをかけて

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