グルメクラブ powered by 大人のレストランガイド

Food Selection

パリでなく箱根で勝負する 一つ星シェフ金山氏の選択 ガストロノミー最前線(8)

2018/6/5

手長海老、ハーブ、パルメザン

 東京とパリで25年間働いた後、自然の近くで料理する道を選んだ。箱根にあるホテルの総料理長という立場の傍ら、館内の少人数限定レストラン「ベルス」で腕をふるう。作るのは、都市の喧噪(けんそう)から離れてこそ心に響く料理だ。

「パリのレストラン界は日本人に支えられている」とフランス人が公言してはばからないほど、パリにおける日本人シェフの活躍は目覚ましい。以前なら2番手になれてもシェフになるのは難しかった。それが次々とシェフの座に就くようになった。最近では業界の動向を左右するポジションまで占める。下支えからリードする側へ立場を移したと言ってよい。

「ハイアット リージェンシー 箱根 リゾート&スパ」で腕をふるう金山康弘さんもそんな一人だった。2010年にシェフを任されるようになり、12年にはミシュランの星を獲得した。しかし、13年に帰国。パリではなく日本で料理する道を選んだ。同ホテルの総支配人から直々に口説き落とされたからだが、「子供が生まれることになり、日本に帰ろうとしていたタイミングでもありました」。

■食材に語らせる料理

 帰国を決心した理由のひとつに箱根という場所がある。「自然の近くで料理がしたいと思うようになっていたのです。食べ手がリラックスした僕の料理と向き合える環境が望ましいとも感じていました」

ホテルを取り囲むのは森の木々、川の水音、鳥の鳴き声。厨房から一歩出れば、瞬く間に自然と一体化する。「感覚をニュートラルに保てますね」と金山さん

 金山さんが料理について語る時、度々、「素材の奥にある味」という言葉を使う。素材の奥深くに潜む、ややもすれば見過ごしがちな、調理次第では覆い隠してしまいがちな味。それをいかに引き出すかが金山さんの身上なのだ。ワインのテイスティングでグラスの中から多種多様な味や香りの要素をすくい上げる、あの感覚に似ている。たとえば、「ビーツにはトウモロコシの味がある」と金山さん。

 彼にとっての調理とは、素材に内在する味や質感の要素を捕らえ、何を引き出し、どう提示するかだ。どの程度の塩をして、どのくらいの温度のどんな性質の熱を加えれば、要素が表に現れてくるのか。鳥類の肉なら60~70℃でゆっくり火入れすると、緻密で滑らかな肉質が潤いを保ったまましっとり仕上がる、といったように。冒頭の写真の料理は手長海老だが、「生のままサーブし、客席で熱いブイヨンをかけると、熱が入っていく過程の味と香りを舌の上でキャッチしてもらえる」。

<料理解説>
手長海老、ハーブ、パルメザン。生の手長海老に熱いブイヨンをかけ、皿の上で熱を入れていく。ブイヨンは、手長海老の手を乾かすようにオーブンで焼いて水と白ワインで煮出ししたもの。「素材が良いからこそ許される、極めてシンプルな料理法です」

グルメクラブ新着記事

ALL CHANNEL