新聞読み要約を話す 齋藤孝流「知的な話し方」指南
齋藤孝先生の「大人の人間関係力」講座(2)
人から「軽薄」と見られるよりは、「知的」と見られた方がいい。その印象は、「話し方」でコントロールできる。相応のトレーニングを行えば、意外と簡単に「インテリ風」に変身できるのだ。『声に出して読みたい日本語』などを著した明治大学文学部の齋藤孝教授が「知的」に見せる話し方について解説する。
<前回の「以心伝心は幻想 人間関係力はトレーニングで向上する」はこちら>
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人と話していて、「この人は賢そうだ」とか、逆に「あまり賢くないかも……」「軽薄そうだ」と感じることがある。社会人ならできるだけ知的に見られたいはずだ。
では、自分の話し方が相手にどんな印象を与えているか、検証したことはあるだろうか。試しに、プレゼンや会議での自身の発言を、ICレコーダーで録音してみるといい。恐らく多くの人はがっかりするはずだ。緊張して声が上ずるだけならまだいい。しどろもどろになったり、同じ言葉を何度も繰り返したり、妙な口癖があったり、主語と述語がねじれていたり、誤解を招くような発言をしたり……。「知的」とは程遠く聞こえるのではないだろうか。
自分の感情を切り離し、伝えるべき事実を話す
私たちは自身の話し方を「まとも」だと思い込んでいる。聞き手になったことがないのだから、仕方がない。だから客観的に聞くと、そのギャップに驚かされるわけだ。
しかし慌てる必要はない。どうすれば知的な話し方になるのか、冷静に考えてみよう。これには大きく2つの方向性がある。
1つは、「事実と感情を分ける」ことだ。「マジマンジ」「マジヤバイ」「スゲェ」「ムカつく」とばかり発言する人がいたとしたら、間違いなく軽薄に見える。言葉としての品性の問題は別としても、これらは個人の感情の発露に過ぎず、事実や情報は含まれない。つまり、聞き手にとって価値がない。
知的な話し方とは、この対極だと考えればいい。特にビジネス現場では、とりあえず感情を排除して、伝えるべき事実を伝えることが重要だ。理想形は、新聞記事のような内容を、端的に話すこと。ただし記事を読み上げるだけなら、人工音声でもできる。人間が話す以上、もう少し柔軟性や応用力が欲しい。
これについては、簡単なトレーニング法がある。適当な新聞記事を読んだ後に、それを要約しながら自分の言葉で話してみることだ。15秒以内、30秒以内、1分以内なとどストップウオッチで計りながら、要約して話せばさらに効果的。これを繰り返せば、必死で考えるので、知的で臨機応変な話し方を身につけやすくなるだろう。
一見、面倒そうだが、実はそうでもない。ポイントは、記事からキーワードを3~5個ほどピックアップすること。それらを交えて話せば、さほど的外れにはならないはずだ。
それを踏まえて、自分なりのコメントをつけ加えれば、人工音声との差別化も図れるだろう。
「カタカナ言葉」を習得して語彙力を高める
知的に話すためのもう1つの方向性は、「語彙(ボキャブラリー)を増やす」ことだ。
状況を的確な言葉で表現できなければ、知的には見えない。あるいは相手の発する言葉の意味を理解できなければ、曖昧な受け答えしかできない。いくら取り繕ったつもりでも、相手には「分かっていないな(=知的ではないな)」と伝わる。
語彙を増やす王道といえば「読書」。日々新聞を読んでいれば、基礎的な語彙を自然に増やすこともできる。しかし、それだけでは足りない。
特に注意すべきは、ビジネスの現場で増え続ける「カタカナ言葉」だ。「コンプライアンス」「コンセプト」「リスペクト」「ハラスメント」などは、仕事上の会話で当たり前のように使われている。いずれも日本語に変換できないことはないが、ややニュアンスが変わるという特徴がある。
あるいは 「デフォルト」の場合、金融用語としては「債務不履行」という意味だが、コンピューター用語では「標準設定」という意味もある。以前、大阪のテレビ番組に出演した際、ある出演者から「大阪はうどん定食(ご飯付き)がデフォ」と伺った。一瞬、かの地ではうどんに人格があるのかと勘違いして驚いたのは、ここだけの話。
覚えた言葉を会話で使ってみる
新しい言葉は、生きた会話の中で習得する必要がある。上司や取引先の言葉の中に聞き慣れない単語があれば、すかさずメモしたり、スマートフォンに打ち込んだりしてインターネットで調べてみよう。
概要をつかんだら、できるだけ早く、自分の会話の中で使ってみること。2~3回も使えば、自分の語彙として定着するはずだ。
もっと「スパーリング」したければ、特定の業界の関係者が集まる飲み会などに、機会を見つけて参加してみよう。そういう場は、業界話で盛り上がるものだ。生きた業界用語が縦横に飛び交っているはずだ。最新の語彙を吸収するために、これ以上の教室はない。
1 自分の話し方を「客観的」に知ろう
自分の発言を録音して聞いてみると、きっと驚きと恥ずかしさに包まれ、「何とかしたい」と思えるようになる。口調や口癖などはここでチェックしよう。
2 「情報」と「感情」を分けよう
「マジデスゴイ」といった感情表現だけでは、冷静な会話にならない。新聞記事の内容を自分の言葉で伝えられるよう、日々トレーニングしよう。情報を踏まえて意見を述べれば、誰もが聞く耳を持ってくれるはずだ。
3 貪欲に「語彙」を増やそう
本や新聞、仕事上の会話で知らない言葉に出合ったら、直ちにチェックしよう。知らない言葉が飛び交っていそうな場にあえて出向く手もある。会話の中で積極的に使ってみることも忘れずに。
(まとめ 島田栄昭)
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業。東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。2001年に出した『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームに。ビジネスに役立つ「人付き合いのコツ」が紹介されている『大人の人間関係力』(日経BP社)が好評発売中。
[齋藤孝著『大人の人間関係力』を再構成]
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