不妊治療は男性から取り組む 早めの精液検査を男性不妊症の実態と治療法(後編)

日経Gooday

小堀さんによれば、腟内射精障害の原因の約半数は、不適切なマスターベーション。射精障害ではない人を含めた一般の3000人に聞いた小堀さんらの調査によると、床に陰部を強く押し付ける、ぎゅっと握る、足を伸ばしていないと射精できないといった不適切なマスターベーションをしている人が約10%弱の割合で存在し、これらの人はそうした強い刺激でないと射精できなくなってしまい、将来、腟内射精障害に進む可能性があるという。

「現実的に子どもが欲しいけれどできないという段階で切羽詰まって、我々の元を受診する人が大半だと思いますが、未婚の人や子どものことをまだ現実的に考えていない人の中にも、こうした不妊症予備軍の人は多いのです」(小堀さん)

射精障害には心理的要因を含めて様々な要因が関係するため、夫婦でのカウンセリングが必要になることもある。小堀さんの診療では「メンズトレーニングカップ」(TENGAヘルスケア)という補助具を使用して、マスターベーション自体を正しく補正する指導なども行っている。また、射精障害の治療に長期間を要する場合は、子どもを授かることを優先して人工授精などが必要になることが多いという。

「男性から取り組む不妊治療」を

男性不妊症を早期発見するために最も重要なのは精液検査を受けることだが、先述の男性不妊の実態調査[注1]によると、多くの人が最初の精液検査は産科・婦人科で受けており、5割近くは女性の検査が終わってから行っていた。また、カップルの約半数が精液検査の結果は「女性が一人で聞いた」という。まず女性が受診して検査を受け、その後に男性が受診するという流れが多く、男性は自分の体のことにもかかわらず女性任せにしている人が少なくないという実態が明らかになった。

不妊治療は「女性の問題」ではなく、「男女二人の問題」という意識を持つことが最初の一歩だ。女性の検査や治療ばかり長年続けても授からず、やっと男性の検査をして精子に原因があると分かったときには、夫婦ともに年齢を重ねていて授かりにくくなっていたというケースも実際にあるという。また、不妊治療は時間との勝負でもあるので、大切な時間をロスしないためにも、男性ができるだけ早く精液検査を受けて精子の状況を知ることが大前提だ。そして、受診するときは二人で一緒に話を聞き、二人で考えていくという心構えを持とう。

「自分の精子の状況が分かれば次の手が見えてきます。男性側から精子を調べていこうと意識を変えて、ぜひ行動につなげてほしいと考えています」(小堀さん)

男性不妊症を早期発見するためのスクリーニング検査(疑いのある人を発見する検査)として、「TENGA MEN'S LOUPE」(TENGAヘルスケア)や「Seem」(リクルートライフスタイル)など、スマートフォンを用いて精子の状態を見られるキットも市販されている。自宅でこうしたキットを利用すれば、女性よりも男性の方が簡単に調べられ、時間のロスも減らすことができそうだ。

切羽詰まってから慌てるのではなく、あらかじめ不妊治療についての正しい知識を持っておくことも大切だ。自分の不妊症の知識がどのくらいあるかチェックできるeラーニングシステム(「こうのとりラーニング」https://www.el-re.dokkyomed.ac.jp)も開発されているので、一度、試してみよう。

(ライター 塚越小枝子)

小堀善友さん
獨協医科大学埼玉医療センター泌尿器科医師・リプロダクションセンター准教授。2001年金沢大学医学部卒業、同大泌尿器科入局、2009年獨協医科大学越谷病院泌尿器科助教、2013年同大越谷病院講師、2014~16年米国イリノイ大学シカゴ校泌尿器科リサーチフェロー。専門は男性不妊症、勃起・射精障害、性感染症。著書に『泌尿器科医が教えるオトコの「性」活習慣病』(中公新書ラクレ)など。HP:Dr.小堀の男の妊活ガイド、Facebook:コボちゃん先生の射精障害講座

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