住宅に旅行者を有料で泊める民泊の届け出が低調だ。住宅宿泊事業法(民泊法)の施行まで1カ月を切ったが、京都市や仙台市など人気観光地でも物件の届け出が伸び悩んでいる。民泊による訪日観光客の増加などビジネス面での期待は高まるが、受け皿となる物件がどこまで広がるかは不透明だ。
6月15日に施行される民泊法では、自治体への届け出を条件に、年180日まで住宅に旅行者を泊めることを認める。旅館業法に基づかない「ヤミ民泊」で騒音などのトラブルが頻発したため、国が規則を設けた。
京都市は観光地として訪日客の人気が高いが5月17日時点で民泊物件の届け出は2件となっている。市は市内だけで4千件近い「民泊」施設があると推定するが「最終的な届け出数は1桁台か、少し上回る程度では」とみる。
仙台市や青森市、秋田市でも7日時点で届け出はゼロだ。訪日客が増えている金沢市も11日時点で届け出はない。
北海道では道と札幌市をあわせて問い合わせが1千件を超えたが、9日時点で届け出は96件にとどまる。東京都港区は六本木をはじめ訪日客に人気の観光地を抱えるが、11日時点で9件だ。
伸び悩みの背景には、民泊を営む個人や法人が自治体の「上乗せ規制」を警戒していることがある。地域住民の声に配慮し、独自の条例で営業制限などを追加する自治体が多い。京都市は住宅地での営業日数の上限を年間60日に絞った。家主が不在の民泊物件には、緊急時に10分程度で駆け付けられる場所に管理人を置くことを求めている。
民泊法が定めた180日だけの営業では、「人件費や手数料を賄って利益を出すのは難しい」(不動産コンサルタント)との指摘もある。自治体の上乗せ規制は「事実上の排除要件だ」(関西の不動産事業者)といった声も漏れる。
届け出には消防関連の文書をはじめ、20種類以上の書類をそろえる必要がある。煩雑な手続きは新規参入者にとってハードルが高い。四国4県では11日までに20件を超す届け出があったが、いずれも書類不備などで受理されていないという。
観光庁の田村明比古長官は4月の定例会見で、「事実上、民泊をしている事業者が継続するかを考えている。今後は色々と動きが出てくるのでは」と期待をかける。
民泊仲介最大手の米エアビーアンドビーは現在、国内で約6万2千件の物件を掲載している。法施行後は無許可の民泊物件を表示しない方針のため、物件の減少を抑えるために家主に届け出を呼びかける。
ニッセイ基礎研究所の佐久間誠研究員は「収益面が厳しく、二の足を踏んでいる事業者が多い」とした上で、「東京五輪や各種イベントでホテルや旅館が足りない際、代替施設を提供できる民泊の利点は大きい」と指摘する。
鍵はコンビニで受け渡し
一方で、周辺ビジネスの動きが活発になってきた。コンビニエンスストア各社は訪日客など民泊を利用する人を店舗に呼び込もうと、相次ぎ関連サービスに乗り出した。
ファミリーマートは14日、民泊仲介の世界最大手、米エアビーアンドビーと業務提携で合意したと発表した。民泊利用者への鍵の受け渡しなどにファミマの店舗網を活用する。
最大手のセブン―イレブン・ジャパンもJTBと連携し、店舗を民泊のチェックイン拠点として活用する。2020年度までに全国主要都市の1千店で展開する。ローソンも保管ボックスを店内に設け、鍵の受け取りや返却をできるようにした。18年度末までに都市部を中心に100店に拡大する。
コンビニ以外にも商機は広がる。楽天LIFULL STAY(東京・千代田)は6月に民泊の仲介サイト「バケーションステイ」を稼働させる。楽天ブランドで内装などを統一する運用代行サービスには数千件の問い合わせがあるという。同社の太田宗克社長は「6月15日は始まりにすぎない。物件の届け出は徐々に増えていく」と中長期の視点で取り組む考えだ。
[日本経済新聞朝刊2018年5月15日付の再構成]